上 下
9 / 39

いえ、相手が弱すぎるだけです

しおりを挟む
パーティーの次の日、来る意味がないのにユリアス様が我が家にいらした。

「魔術院からあのアイテムの捜索を依頼された。出来れば内密に」

ユリアスが渋い顔でマリアーナを見ている。
魔術院の方々も無茶を言いますね。

「それでしたらロイド先生から呼び出しを受けてますので一緒に学園に行きますか?」

官僚でも、理由なく学園には入れないから、と思って提案すれば、意外にもすぐに頷いた。



休みに入った学園に着いて指定の場所に向かうと、ロイドの薄茶色の髪がキョロキョロしているせいかいつもより乱れ、東の庭にあるガゼボで何かを探しているのが見えた。

「ロイド先生?何をお探しですか?」

マリアーナが声を掛けると、水色の目がやっとこちらを見た。

「ガーネット子爵令嬢。いや、昨日の事で、もしかしたらここら辺にあのアイテムがあるかも、と思ってね」

流石魔法学の先生です。あの状況を見ただけでなんの魔法が使われたか理解したようです。
先生は、レベルは高いですが魔力の全体量が少ないのが残念です。

「流石です。でも、何故此処に?」
「デブリ男爵令嬢が此処でダスト伯爵令息達と良く居たから、もしかしたらと思ったんだよ」

確かに。良く此処でいちゃいちゃしてましたっけ。

「私も探しますね」
「いや、さっきから探してるけど、見つからないから此処では無いのかもしれない」

ロイド先生は、諦めたようにポケットに手を突っ込み首を横に振った。

「そうですか。で、今回の呼び出しの用件は?」
「学園内でガーネット子爵令嬢、君を守れなかった事を謝罪しようと思って」

水色の目が申し訳なさそうにこちらを見る。
ロイド先生、真面目ですね。
でも、本気で謝罪するならうちに来てください。呼び出しなんてちょっと誠意を疑います。

「謝罪をしていただくような事、何もありませんでした。ロイド先生はデブリ男爵令嬢達と距離を取っておりましたし」

違法アイテムの影響により私を罵倒していたのは主に他の攻略対象者達であって、ロイド先生は遠巻きに見ていただけですから。

しかも、ヒロイン達からの精神干渉魔法は使われた形跡がありませんでした。
じゃあ、何故私は学園の生徒達から距離を置かれていたんでしょう?ちょっと疑問です。
困っていませんでしたけどね。

「それにしても、此処はちょっと殺風景ですね。花も少ないですし」

本当に殺風景です。ガゼボとちょっとした花壇。テーブルは1つで椅子も5脚しかない。
テーブルに触れば、表面が少しざらついて、飾りの彫刻も消え掛かっている。

「此処なら人目に付きませんからね」

ロイド先生の投げやりな言い方を軽く笑いながら聞き流し、ユリアス様に目を向けた。

「ジルコン公爵令息、わざわざ付いて来てくださり感謝します。先生のご用事は謝罪だけでした」
「安堵しました。言い掛かりをかけられるかと心配しましたから」

ユリアス様の言葉にロイド先生が複雑な顔をしていたが、同行した理由を否定できないだろう。

「謝罪は本当に必要ありません。ダスト伯爵令息とは卒業パーティー前に婚約を解消しておりましたし、直接被害は受けておりませんので」

私がテーブルから手を離し、真っ直ぐロイド先生を見ると、先生は寂しそうに笑った。

「ガーネット子爵令嬢は強いですね」

いえ、ダスト伯爵令息が弱すぎただけです、とは言えないので曖昧な笑みで誤魔化した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

[完結]悪役令嬢様。ヒロインなんかしたくないので暗躍します

紅月
恋愛
突然の事故死の後、なんでこんなアニメか乙女ゲームのヒロインの様な子に転生してるの?しかもコイツ(自分だけど)事故物件。 家とか周りに迷惑かけない様にしようとしたら……。 可愛い悪役令嬢様とも出会い、ヒロインなんてしたくないので、私、暗躍します。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~

瑠美るみ子
恋愛
 サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。  だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。  今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。  好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。  王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。  一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め…… *小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

処理中です...