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[アリッサの奮闘記]青のカーバンクル
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「モルセラ卿は何故、今回の討伐に同行を?」
副隊長の脇でアリッサ達の剣技に見惚れていた隊員がモルセラに話しかけた。
「司法省からの要請がきちんと遂行されているかの確認を陛下から命じられましたので」
その言葉だけでモルセラがただの護衛官ではない事が判明し、隊員達は改めてモルセラを見た。
モルセラとしては、命令遂行の確認だけのつもりが、アリッサの剣技をまた見れたのは、エリンジウムからだけで無く陛下からの労いの褒美にも感じていた。
2人が話をしていると、騎士崩れの男達は全員捕まっていた。
「呆気ないですね」
モルセラが呆れた顔で戦意喪失している男達を見ている。
いえ、2人が強すぎるだけです。
と、隊員達は腹の中で言ったが、誰も何も言わない。
「さて、隠し部屋の元伯爵達を引っ張り出すか」
ファルシオンが杖を軽く振るうと、壁の一部が消え、部屋の中で喚く男2人と女が2人居た。
夜会の帰りなのか、煌びやか衣装を着ているが、本人達は貧相だ。
前回の人生の時とまるで変わっていないことにアリッサは肩をすくめる。
「おや、元伯爵。ご家族総出で」
クレスト達が笑顔で部屋に入って来た。
「元伯爵だと。吾輩は列記とした……」
年嵩の男が叫んだが、クレストが差し出す書類に絶句する。
「国王陛下のご裁断です」
クレストが差し出す書類は、伯爵の爵位剥奪の命令書。
「我々の召喚に応じていればこの様な手間を陛下にお掛けしないで済んだ事が悔やまれますよ」
ヘナヘナと座り込む男を家族はオロオロ見ているが
「わ、わ、私達は関係無い」
何を思ったのか、くすんだ灰色の髪に銀粉を塗したのか、妙にテカテカした髪の女が突然叫んだ。
「そ、そ、そうよ。わたくしの婚約者は……」
その女によく似た娘が誰かの名を叫ぼうとした時、アリッサが一歩前に出た。
「青のカーバンクルの意味、ご存知ですか?」
一瞬、アリッサが何を言いたいのか理解出来なかった。
「青のカーバンクル?」
エリカが首を傾げながらアリッサを見た。
「その髪飾り、青のカーバンクルですね」
夫人と娘の髪には小粒だが、青い見事な宝石が飾られている。
「だからなんだと言うの!」
娘が噛み付く様に叫ぶのを夫人が止めようとするが、娘はアリッサを罵倒し始めた。
「美しいわたくしの髪を飾れるのだから文句なんてないはずよ」
「知っている様だな」
ファルシオンが不快そうに眉を顰めた。
「そうですか」
アリッサが目を細め、微笑むともの凄い風が吹き、4人が風に煽られた背の高い草の様に後ろにのけぞった。
その場にいた者達は何が起こったか理解できずキョロキョロしたが、ブーっと隣にいるエリカが吹き出した。
皆、エリカを見るとエリカは腹を抱えて笑っている。
「た、隊長?」
副隊長が恐る恐るエリカに声を掛けると笑いが収まらないエリカがプルプル震えながら4人の方を指さした。
「あ……」
唖然、と言うのはこう言うことかもしれない。
エリカの指さした先には4つのこけしが立っている。
「すげ~、もみあげだけ残してるよ」
「全部無いよりマシか?」
「うわ、眉毛も無いぞ」
「こわっ」
「目、ちっさ。俺達の事見えてんのか?」
失礼だが率直な隊員達の言葉に4人は猛然と怒鳴り出したが、大笑いして誰も聞いちゃいない。
「これで青のカーバンクルは不要になりましたね」
アリッサの手の中には青いカーバンクルの髪飾りがあり、切なそうに見つめていた。
「戻る母体がないから復活は出来ないが、アンサシアに託せば綺麗な花になるだろう」
ファルシオンがそっとアリッサの肩に手を置き、ヒョイと抱き上げた。
「し、師匠」
「無理しすぎだ。魔力切れを起こしている」
あれだけ大掛かりの魔法を使ったのだ、よく見ればアリッサの顔色は青を通り越して白くなっている。
副隊長の脇でアリッサ達の剣技に見惚れていた隊員がモルセラに話しかけた。
「司法省からの要請がきちんと遂行されているかの確認を陛下から命じられましたので」
その言葉だけでモルセラがただの護衛官ではない事が判明し、隊員達は改めてモルセラを見た。
モルセラとしては、命令遂行の確認だけのつもりが、アリッサの剣技をまた見れたのは、エリンジウムからだけで無く陛下からの労いの褒美にも感じていた。
2人が話をしていると、騎士崩れの男達は全員捕まっていた。
「呆気ないですね」
モルセラが呆れた顔で戦意喪失している男達を見ている。
いえ、2人が強すぎるだけです。
と、隊員達は腹の中で言ったが、誰も何も言わない。
「さて、隠し部屋の元伯爵達を引っ張り出すか」
ファルシオンが杖を軽く振るうと、壁の一部が消え、部屋の中で喚く男2人と女が2人居た。
夜会の帰りなのか、煌びやか衣装を着ているが、本人達は貧相だ。
前回の人生の時とまるで変わっていないことにアリッサは肩をすくめる。
「おや、元伯爵。ご家族総出で」
クレスト達が笑顔で部屋に入って来た。
「元伯爵だと。吾輩は列記とした……」
年嵩の男が叫んだが、クレストが差し出す書類に絶句する。
「国王陛下のご裁断です」
クレストが差し出す書類は、伯爵の爵位剥奪の命令書。
「我々の召喚に応じていればこの様な手間を陛下にお掛けしないで済んだ事が悔やまれますよ」
ヘナヘナと座り込む男を家族はオロオロ見ているが
「わ、わ、私達は関係無い」
何を思ったのか、くすんだ灰色の髪に銀粉を塗したのか、妙にテカテカした髪の女が突然叫んだ。
「そ、そ、そうよ。わたくしの婚約者は……」
その女によく似た娘が誰かの名を叫ぼうとした時、アリッサが一歩前に出た。
「青のカーバンクルの意味、ご存知ですか?」
一瞬、アリッサが何を言いたいのか理解出来なかった。
「青のカーバンクル?」
エリカが首を傾げながらアリッサを見た。
「その髪飾り、青のカーバンクルですね」
夫人と娘の髪には小粒だが、青い見事な宝石が飾られている。
「だからなんだと言うの!」
娘が噛み付く様に叫ぶのを夫人が止めようとするが、娘はアリッサを罵倒し始めた。
「美しいわたくしの髪を飾れるのだから文句なんてないはずよ」
「知っている様だな」
ファルシオンが不快そうに眉を顰めた。
「そうですか」
アリッサが目を細め、微笑むともの凄い風が吹き、4人が風に煽られた背の高い草の様に後ろにのけぞった。
その場にいた者達は何が起こったか理解できずキョロキョロしたが、ブーっと隣にいるエリカが吹き出した。
皆、エリカを見るとエリカは腹を抱えて笑っている。
「た、隊長?」
副隊長が恐る恐るエリカに声を掛けると笑いが収まらないエリカがプルプル震えながら4人の方を指さした。
「あ……」
唖然、と言うのはこう言うことかもしれない。
エリカの指さした先には4つのこけしが立っている。
「すげ~、もみあげだけ残してるよ」
「全部無いよりマシか?」
「うわ、眉毛も無いぞ」
「こわっ」
「目、ちっさ。俺達の事見えてんのか?」
失礼だが率直な隊員達の言葉に4人は猛然と怒鳴り出したが、大笑いして誰も聞いちゃいない。
「これで青のカーバンクルは不要になりましたね」
アリッサの手の中には青いカーバンクルの髪飾りがあり、切なそうに見つめていた。
「戻る母体がないから復活は出来ないが、アンサシアに託せば綺麗な花になるだろう」
ファルシオンがそっとアリッサの肩に手を置き、ヒョイと抱き上げた。
「し、師匠」
「無理しすぎだ。魔力切れを起こしている」
あれだけ大掛かりの魔法を使ったのだ、よく見ればアリッサの顔色は青を通り越して白くなっている。
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