[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月

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婚約者?いつの話ですか?

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「アリッサ・リスリム」

会場の手前で、突然アリッサを呼ぶ男の声にミモザ達と一緒に居るアリッサが足を止め、振り返った。

茶色の髪に同色の目をした、見覚えの無い男にミモザ達は首を傾げたが、アリッサは一瞬、眉を顰めた。

「何方?」
「ハモンド・ホーア子爵令息です」

ミモザの問い掛けにアリッサが答える前にエニシダが男の名前を口にした。

「ホーア子爵令息?」

高位貴族をほぼ覚えているミモザだが、全く知らない人間だ。

「ファルシオン先生から警戒する様言われていた生徒です」

いつ聞いたのですか?と驚くアリッサの横でエニシダの厳しい目がホーア子爵令息を射抜く様にみている。

それなのにホーア子爵令息がズカズカとアリッサ達の方に歩み寄り、アリッサの腕を掴もうとした。

が、エニシダとアリッサがあっという間にホーア子爵令息の腕を逆に掴むと、後ろ手に抑え込み膝裏を蹴り、跪かせた。

「貴様、俺を誰だと思ってる」
「ホーア子爵令息ですよね。まだ懲りずにアリッサさんの周りを彷徨いているのですか?」

気が弱かったエニシダとは思えない毅然とした厳しい声に周りの者達が唖然とする。

「煩い。コイツは俺の婚約者だ。俺が何しようと、お前には関係ない」

ホーア子爵令息が叫ぶが、エニシダは手を緩める事はせず、チラッと人混みの方に目を向けた。

「夢を見るのは勝手だが、現実では無い。お前との婚約話はアリッサが15歳の時、アリッサの両親がきっちり断ったはずだ」

エニシダの視線の先にはファルシオンとエリンジウム達がおり、呆れた顔でホーア子爵令息を見ていた。

「嘘だ。父上はちゃんと婚約を纏めた、と言ってた」
「アリッサ嬢と君の婚約は認められてないどころか、リスリム家から侮辱行為で訴えられているが?」

マロウが無表情で質問をする。

「煩い。父上や母上は相手から歓待された、と……」

恐怖の冷や汗なのか、痛みの脂汗なのか滝の様な汗がダラダラと流れている。

「両親から聞きましたが、政略結婚のメリットもないホーア子爵家との縁組はありえないそうです」

アリッサも呆れながら、淡々と説明をする。

「思い出しましたわ。貴方、確かセルベン辺境伯令嬢のアイリス様とご婚約された方ね」

流石、高位貴族の顔と名前を全て記憶しているミモザだ。
ホーア子爵令息の現状を話すミモザはニコニコしているが、目は少し冷たい。

ミモザが言っていた、セルベン辺境伯は魔獣の跋扈する辺境地を守る高位貴族で、王家に忠誠を誓う屈強な方で、その令嬢もまたとても屈強な令嬢だ。

そんなセルベン辺境伯は王家にとっては有能で信頼できる臣下だが、容姿は非常に……逞しい。
令嬢に至っては、盗賊を素手で捕まえ、その容姿で気絶させる程だ、と聞いている。

「僕も聞いたことがあります。なんでもアイリス嬢が一目惚れして、熱烈に申し込まれた婚約だ、と」

マロウの言葉で、その場にいた者達が一瞬でホーア子爵令息を同情した目で見た。

「お、お、お、俺はあんな猿型魔獣の様な女なんかと……」
「ホーア子爵令息、女性の容姿を侮辱するなんて、紳士とは思えませんわ。アイリス様は愛情深い方ですのよ」

可憐なミモザの言葉に、女子生徒達の目がホーア子爵令息を冷たく見る。
確かにアイリス嬢は容姿は厳ついが、性格は良く、淑女としてのマナーも完璧だ。

「師匠の差金ですか?」

アリッサが小声でファルシオンに問い掛けると

「俺は、セルベン辺境伯にアイリス嬢好みの男が居る、としか言ってない」

と、笑う。

「まぁ、あの阿呆が青くなる所を見れただけは感謝します」

呆れた顔をしているが、肩の荷が降りたのか、安堵の笑みも浮かべている。

「あれがアリッサの夫だったと知った時は、魔獣の餌にしてやろうか、と思ったけどな」
「婚約時から浮気ばかりで、初夜さえしていないですし、実際婚姻していたのは数ヶ月ですけどね」

既にアリッサの中ではホーア家との繋がりは1度目で終わった事になっているが、ホーア子爵家と令息にとっては死活問題なのだろう。
借金まみれで見栄っ張りのホーア家が最初に寄生しようとしたのがリスリム家だった。

1度目は何も知らなかった為、結婚したが2度目からはアリッサがホーア家の状況を両親に伝えて婚約話を潰して来た。
今回も早々に婚約話を潰したが、ファルシオンは更に追い打ちをかけ、ホーア家はリスリム家との繋がりを諦め、息子を犠牲にしてセルベン家の援助を受けようとしているのだろう。

だが、セルベン家は辺境地を守る高潔な家。寄生虫の様な家に甘い汁など吸わせない。

「ご結婚後、ホーア子爵令息は婿養子としてセルベン辺境伯家に入り、ホーア家も一族で令嬢の為に辺境伯の為に働かれるとお聞きしてますわ」

実質、ホーア家は取り潰しとなりセルベン家で平民の使用人として働かされるのだ。
ミモザの悪気の無い、朗らかな笑顔にエリンジウムは表情を緩めているが、言っている事はかなり辛辣だ。

「こう言っては語弊がありそうなのですが、何故アイリス様ほどの御令嬢がホーア子爵令息を?」

アリッサの疑問は周りの女子生徒達の疑問でもある。
容姿には恵まれなかったが、アイリスは素晴らしい令嬢で、憧れる令嬢も多い。

「なんでも、見栄っ張りで、頭が軽く下半身が緩い方をお尻でぺちゃんこにする事を熱望されてるみたいです」

アイリス様は鬼畜ですか?
ランタナの発言に周りの女子生徒達が驚いた。

「ご自分で、他の令嬢への被害を無くそうなど、なんて高潔なのでしょう」

ミモザの言っている事も一理あるだろうが、なんとなく違う気がするのは気のせいでは無い。
が、追求する必要は無い。

「そろそろコレを警備に渡し、私達は会場に入ろうか」

エリンジウムの声に、その場にいた者達はハッとした。
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