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イレギュラー過ぎる実技。
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「では、実技に入るぞ。敵役のこいつらに本気で挑んでみた……」
まえ、と続く筈だろうフェーイックの言葉が途切れる。
「動くな。動けば、依頼を遂行する前にお前達の首が飛ぶよ」
あまりの早業に固まる生徒達を横目にレイピアを抜き、フェーイックを横に蹴り飛ばしたシルヴィーが、冷ややかに黒づくめの男達を見る。
よく見れば、黒づくめの男の1人が腕を押さえ蹲っている。あまりの素早い行動に、男達は対処出来ないで棒立ちになった。
彼女が手にするイーリスの、氷の様な冷たい輝き。
少女が持つ剣気では無い。
息が出来ないほど、尋常じゃない圧迫感に男達の方が狼狽えた。
「こいつの始末は、こっちの取調べが終わったら好きにさせてやる」
ゼオン達も自分のイーリスを抜き、音も無くシルヴィーの横に立った。
どうやら黒づくめの男達はゼオン達によって意図的に学園内に入れられた様だ。
「あんたもイーリス持ってるなら、こいつらの殺気くらい気が付けよ」
リリーがシルヴィーに蹴り飛ばされ、腰を抜かしているフェーイックを見る。
「本当の所持者であれば、イーリスは所持者の危機を教えてくれるものだけど、誰のを盗んだ?」
「こ、これは我輩の……」
「ならば抜いて見せろ」
ゼオンの、けして大きな声では無いが、低く冷たい響きと無表情さが怒りの深さを感じさせる。
「貴方は、まだイーリスを玩具にする癖が治らない様ですね」
ゆっくりとフェーイックに顔を向けた、シルヴィーの赤紫の瞳にフェーイックは、ひっ、と悲鳴を上げる。
フェーイックにとっては、見覚えがありすぎる美しい赤紫の瞳。
「もう一度だけ聞く。誰のを盗んだ」
「我輩の……」
「アーロン・ベリル先生のものでしょう」
すぐに視線を目の前の男達に戻し、シルヴィーが淡々と告げる。
「アーロン・ベリル?」
ゼオンは初めて聞く名前に首を傾げる。
「以前、ジルコン公爵家で筆頭護衛騎士をしていたが、イーリスを盗まれた事を恥、学園に来たそうです」
剣を帯刀していない騎士、アーロン・ベリル。
兄、ハロルドやダドリーからの情報で、シルヴィーはベリルの背景を知っていた。
だからナタリアと共に、出来るだけ自然に盗まれた物が戻る、と言う魔法陣を彼に発動させたのだ。
こんな形でアーロンのイーリスが戻る、とは思っていなかったが。
「ベリル先生、そいつが持っているイーリスを抜いてみてください」
フェーイックが抱え込もうとしたイーリスをリリーが取り上げ、人混みから出て来たベリルに渡した。
ベリルは一瞬、驚いた顔でリリーを見たが、渡されたイーリスを静かに抜いてみせた。
一点の曇りも無い、銀色の光を纏う刀身にため息が溢れる。
当然、その刀身にはベリルの名前が浮かび上がっている。
「一旦、引いてくれますね」
シルヴィーの問い掛けに、黒づくめの男達のリーダーらしき1人が頷く。
流石に正規の騎士で、イーリスの使い手が4人も居れば、自分達に勝ち目が無い事は彼らも理解している。
「どのくらいで引き渡してもらえるのでしょうか?」
「3日後で、如何だ?」
ゼオンの言葉に頷くと、男達は蹲っている男を抱え、その場から姿を消した。
「3日とは、随分長いね」
ウィリアムが、スタスタとゼオンの前に歩いてくる。
「叩けば山の様に埃が出ると思いますので、余裕を含めました」
「愚かな野心を持たず、素直に北の鉱山に行っていれば、罪を重ねず長生き出来たものを」
ウィリアムの冷酷な呟きに、悲鳴すら上げられなくなったフェーイックは、学園の警備兵に引き摺られるように連れて行かれた。
「学園の人事も一掃する必要が出来たな」
呆れた様にウィリアムがチラリ、と学園長の執務室あたりを見ると、慌ててカーテンが閉められた。
「本当に残念です。下級貴族や平民の生徒の為に尽力してくださる、しっかりした教育者だと尊敬してましたのに」
学園長はカスでも下の方達が素晴らしかった、と頭を切り替え、シルヴィーはレイピアを鞘に収めた。
まえ、と続く筈だろうフェーイックの言葉が途切れる。
「動くな。動けば、依頼を遂行する前にお前達の首が飛ぶよ」
あまりの早業に固まる生徒達を横目にレイピアを抜き、フェーイックを横に蹴り飛ばしたシルヴィーが、冷ややかに黒づくめの男達を見る。
よく見れば、黒づくめの男の1人が腕を押さえ蹲っている。あまりの素早い行動に、男達は対処出来ないで棒立ちになった。
彼女が手にするイーリスの、氷の様な冷たい輝き。
少女が持つ剣気では無い。
息が出来ないほど、尋常じゃない圧迫感に男達の方が狼狽えた。
「こいつの始末は、こっちの取調べが終わったら好きにさせてやる」
ゼオン達も自分のイーリスを抜き、音も無くシルヴィーの横に立った。
どうやら黒づくめの男達はゼオン達によって意図的に学園内に入れられた様だ。
「あんたもイーリス持ってるなら、こいつらの殺気くらい気が付けよ」
リリーがシルヴィーに蹴り飛ばされ、腰を抜かしているフェーイックを見る。
「本当の所持者であれば、イーリスは所持者の危機を教えてくれるものだけど、誰のを盗んだ?」
「こ、これは我輩の……」
「ならば抜いて見せろ」
ゼオンの、けして大きな声では無いが、低く冷たい響きと無表情さが怒りの深さを感じさせる。
「貴方は、まだイーリスを玩具にする癖が治らない様ですね」
ゆっくりとフェーイックに顔を向けた、シルヴィーの赤紫の瞳にフェーイックは、ひっ、と悲鳴を上げる。
フェーイックにとっては、見覚えがありすぎる美しい赤紫の瞳。
「もう一度だけ聞く。誰のを盗んだ」
「我輩の……」
「アーロン・ベリル先生のものでしょう」
すぐに視線を目の前の男達に戻し、シルヴィーが淡々と告げる。
「アーロン・ベリル?」
ゼオンは初めて聞く名前に首を傾げる。
「以前、ジルコン公爵家で筆頭護衛騎士をしていたが、イーリスを盗まれた事を恥、学園に来たそうです」
剣を帯刀していない騎士、アーロン・ベリル。
兄、ハロルドやダドリーからの情報で、シルヴィーはベリルの背景を知っていた。
だからナタリアと共に、出来るだけ自然に盗まれた物が戻る、と言う魔法陣を彼に発動させたのだ。
こんな形でアーロンのイーリスが戻る、とは思っていなかったが。
「ベリル先生、そいつが持っているイーリスを抜いてみてください」
フェーイックが抱え込もうとしたイーリスをリリーが取り上げ、人混みから出て来たベリルに渡した。
ベリルは一瞬、驚いた顔でリリーを見たが、渡されたイーリスを静かに抜いてみせた。
一点の曇りも無い、銀色の光を纏う刀身にため息が溢れる。
当然、その刀身にはベリルの名前が浮かび上がっている。
「一旦、引いてくれますね」
シルヴィーの問い掛けに、黒づくめの男達のリーダーらしき1人が頷く。
流石に正規の騎士で、イーリスの使い手が4人も居れば、自分達に勝ち目が無い事は彼らも理解している。
「どのくらいで引き渡してもらえるのでしょうか?」
「3日後で、如何だ?」
ゼオンの言葉に頷くと、男達は蹲っている男を抱え、その場から姿を消した。
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「叩けば山の様に埃が出ると思いますので、余裕を含めました」
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ウィリアムの冷酷な呟きに、悲鳴すら上げられなくなったフェーイックは、学園の警備兵に引き摺られるように連れて行かれた。
「学園の人事も一掃する必要が出来たな」
呆れた様にウィリアムがチラリ、と学園長の執務室あたりを見ると、慌ててカーテンが閉められた。
「本当に残念です。下級貴族や平民の生徒の為に尽力してくださる、しっかりした教育者だと尊敬してましたのに」
学園長はカスでも下の方達が素晴らしかった、と頭を切り替え、シルヴィーはレイピアを鞘に収めた。
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