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制服を着た子はとんでも無い実力者です。

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「リリー先輩、何をすれば良いんですか?」

3人の騎士の1人が面倒くさそうに声をかけてきたので、リリーはニヤッと笑う。

「まずは先輩達の様子を見てからだ。シルヴィー様、宜しいですか?」
「訓練用の剣を貸して。さすがにこの剣は使いたくないから」

シルヴィーが持っていたレイピアをエインに預け、訓練用の刃を潰した剣を持って、訓練場の真ん中に立った。

古参の騎士達が期待にソワソワしながら名前を呼ばれるのを待つ姿を、若い騎士達はしらけた顔で見ていた。

あんな学園の制服を着た子供に何が出来るんだ、とでも思っているんだろう。

最初の騎士が呼ばれ、シルヴィーの前に立った。
騎士が予備動作もなく切り掛かったのに、シルヴィーはまるで気にもしない。

数回、剣を合わせたが、

「腕は鈍ってないね」

と、頷き次の騎士に目を向ける。
次の騎士も数回剣を合わせるだけで、シルヴィーは一歩も動かない。
それなのに騎士達は息が切れ、肩で息をするものまでいた。

「次は貴方です」

若い3人の騎士の、赤い髪をした者にリリーが声を掛け、目で行けと合図した。

「はじめまして、かな?」
「はい。私は……」
「名前はいいよ。覚え切れないから」

シルヴィーの素っ気ない態度に赤い髪をした騎士はムッとした様に口をピクピクさせていたが、シルヴィーが剣を構えた途端、どっと冷や汗が出た。

何気ない仕草。
気合いなどまるで入っていない立ち姿。
それなのに体を押し潰すような気配に、若い騎士は動けなくなっていた。

「もういい、下がれ」

リリーに声を掛けられ、赤い髪の騎士はギクシャクした動きで訓練場の外に出た。
残りの2人、黄色の髪をした騎士と青い髪をした騎士もシルヴィーの前に立った途端、一歩も動けなくなった。

「……やっぱりね。で、動けなかった理由、解るか?」

リリーの問いに3人は首を横に振る。

「本能が拒否するんだよ。一歩でも動けば瞬殺されるって」

実際、シルヴィーと剣を打ち合わせられたのは、騎士団でも指折りの騎士達だ。

「でも、筋は悪く無いよ。ちゃんと鍛錬を積めばその子達、喜んで刀身に名前を刻むと思うよ」

リリーの言葉に青くなった3人に、抜き打ち試験を終えたシルヴィーが声をかける。

「で、君達にイーリスを渡したのは誰?」

リリーが面倒臭そうに3人を見た。

「学園の騎士科の、主任教師のフェーイック先生です」

チラッ、とリリーの蜂蜜色の瞳がシルヴィーを見る。
シルヴィーは騎士科の授業はまだ座学しか受けていないから顔も知らないが、騎士科の授業を取っていなくても、ウィリアム辺りなら知っているだろう。

「その人が何を言ったか知らないけど、今の君達の実力では、イーリスの所有者として認めない」

リリーでは無く、エインが騎士団としての結論を下した。

当然の結果だ。
シルヴィーを前にして、一歩も動けないものがイーリスを持つなど、有り得ない事だ。

「リリーみたいに地味な基礎訓練をきちっと積めば、今すぐは無理でも、ちゃんと剣受式の試験に合格できる素質はあるよ」

シルヴィーの言葉に項垂れていた3人が、ガバッと顔を上げる。

「努力します」

上げたばかりなのに、3人同時に頭を下げた。
赤、黄、青の丸い頭が前世でよく見ていた物とダブる。

「そう言えば、まだ名前、聞いてなかったね」

これだけ話をして、名前を聞かないのは失礼だろう、とさっきは拒否した自己紹介を促した。

「はい。私はシンジャリファンス」
赤い髪の騎士が名乗る。

「僕はゴーリャネハランです」
黄色の髪の騎士が続き

「僕はキーマリャスュレンです」
青い髪の騎士の名前は最難関だ。

シルヴィーの目が点になる。カンペがあっても一回では発音できず、すぐには覚えられないだろう3人の名前。

リリーだけで無く、エインとゼオンも困った顔をしている所を見ると、彼らが騎士団に打ち解けられない理由もなんとなく理解できる。

「シン、ゴー、キー。頭文字で呼ぶと、楽しい響きになるね」

シルヴィーも前世の記憶の所為で、さっき浮かんだものの名前を口にした。

「確かに。シン、ゴー、キー。覚えやすいし呼びやすいな」

ゼオンが頷いているし、リリーは秘書の様に、何かを書類に書き込んでいる。

「やはり呼びづらいし、覚えにくいですよね。親も訳して呼びますから……」

彼らも気にしていたのか、心なしか項垂れている。

「貴方達がいい、と言ったら騎士団では此方を登録名にしますが?」
「はい。折角シルヴィー様に付けていただいた名前。他の先輩達にも呼んで貰いたいです」

赤い髪のシンが、ぶんぶん音がしそうな勢いで首を縦に振る。
ゴーとキーも一緒に頷くと、シルヴィーの目には何故か点滅する信号機に見えた。

「では、シン、ゴー、キー。訓練に戻りなさい。後、他の団員に登録名変更を報告する事」
「はい。失礼します」

ピシッと3人が揃って頭を下げた。

妙な愛称を付けたことに、笑うところか謝るところか分からないが、孤立しかかっていた彼らが騎士団に馴染むのも直ぐだろう。
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