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騎士団も厄介事が山積みでした。

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「無理だね」
「無理ですね」
「何でですか??」

王宮に居るエインを探せば父レイモンドの執務室にいると聞き、急いで向かいレイピアの返却を頼んだが、2人とも無理だ、としか言わない。

「だって、俺が言い出した訳じゃないから」

黒髪を後ろで纏め、さらに色気が増した琥珀の瞳に優しい微笑みを浮かべ、エインがシルヴィーの頭を撫でる。

「どう言う事ですか?」
「そのレイピアがシルヴィーを主人に選んだんだから」
「自ら、刀身に名を入れるほど熱望しているからなぁ」

レイモンド達の言葉にシルヴィーが焦って鞘から抜けば、細い刀身にクッキリとシルヴィーの名前が浮かんでいる。

「なんで??」

訳が判らない、と言った顔でレイピアの刀身を見詰めるシルヴィーにレイモンドが声を掛けた。

「元ジルコニア男爵が勝手にイーリスを持ち出した件で、事態の重大性を感じたジェイド総騎士団長が剣受式でイーリスに持ち主の名を入れる様にした」

この話は聞いたことがあり、シルヴィーも頷く。

「そうしたら、魔獣王様と聖霊王様が王家のイーリスにも主人が居るかも、と言い出され確認したところ」
「私の名前があった」
「そう。いやぁ、驚いたよ」

エインが朗らかに笑う。
シルヴィーから見たら、まるで笑えないのだが。

「陛下はなんと……」
「腹抱えて笑いながら、あり得ると仰っておられた」

豪快な陛下に感謝するべきだろう。
根性が曲がっているか猜疑心の強い王なら、間違いなくシルヴィーの首は飛んでいた。

と、いうより魔獣王と精霊王はいつの間に陛下の前にまで姿を見せる様になったのかが疑問だ。

「陛下の寛大な御心に感謝します」

イーリスの返却は無理だと諦めて帰ろうとしたシルヴィーが、顔見知りの女性騎士を事務方の仕事場で見つけ、目を丸くした。

「何故、リリーが事務方に?」

リリーは平民出だが、かなり腕の立つ騎士で、年はシルヴィーより4つ上で、第二騎士団の3番手だった筈だ。

しかも良く見れば、事務方が詰める事務所にはやたら騎士団でも地位の高い女性騎士が居る。

「ジェイド総騎士団長の頼みだ」

あの豪快で公平な総騎士団長が、女性蔑視をするとは考えられない。

「騎士団の中で何がありました?」
「馬車寄せまで送ろう」

エインがレイモンドに目で頷き、シルヴィーを執務室から連れ出した。
訓練場が見える回廊でエインが足を止めた。

「シルヴィー、ゼオン・ジェイド第二騎士団団長を知っているか?」
「お会いした事はありませんが、お名前だけは聞いたことがあります」
「そうか。では、4年前の婚約破棄の事は知らないか」

4年前の事、で思い付くのは魅了魔法と服従魔法のアイテムを使用禁止し、カインの実力を知らしめる為に魔法陣を発動した時に婚約破棄をした方の事。

シルヴィーは彼を直接は知らないが、彼の婚約破棄には関与している。

まさかその婚約破棄の所為で彼の心に傷が出来たのか?
嫌な予想がシルヴィーの頭の中を駆け回る。

「その婚約破棄の件は問題無かったのだが、その後が拙かった」
「えっ?問題無かったのですか?」
「欠片も無い。むしろ嫌な女から解放された、と喜んでいた」

婚約破棄では心に傷が付かなかったようだが、何が有ったのか?

「その後が拙かった。婚約者が居ない彼に、他の令嬢達が腹を空かせた狼の如く群がり、争った所為で、女性不信から恐怖症になったらしい」

思わずシルヴィーは、頭を抱えそうになる手を額に押し付けた。

独身貴族の中ではゼオンはとても優良物件だ。
顔良し、家柄も良い上、本人は騎士団の中でも高い地位に付いている。

目の前に居るエインも優良物件だが、絶対零度の態度で拒否をしている此方には、さすがにお腹を空かせた狼の様な令嬢達も命の危険を感じ、寄って来ない。

「ゼオン様の為に女性騎士達が事務方に」
「ジェイド総騎士団長も、あいつのあの怯え方をみたらこうする他に打つ手がなかった様だし、彼女達も納得している」

案外、繊細なのだろう。
しかし総騎士団長の嫡男が結婚しない、と宣言するのは拙いだろう。

それに、社交界に居る令嬢達だけをみて、全ての女性に恐怖心を持つのもいかがなものかと思う。

だが、エインの話を聞きながらシルヴィーの思考の半分は別のことを気にしていた。
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