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社交界にデビューしなきゃ駄目ですか?

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「すまないベル。参謀殿が居ないと全てに対応する事になって少し疲れていたようだ」

学園の生徒副会長をしているのに、王太子として王家の仕事もこなせば疲れが溜まっていてもおかしくない。

しかし、やたら美形に育ったもんだ、とシルヴィーは感心していた。

背はスラリと高いが、鍛えているからもやしっ子では無い。
緑の髪は煌めく宝石を糸にしたような輝きで、成人を迎えた頃から赤味を帯びてきた紫色の瞳は濡れたように澄んでいながら、色気が溢れている。

見た目は一級品だと言うのに、腹の中は呆れるほど真っ黒だ。

さり気なく視線を外し、困ったような口調でため息混じりに問い掛けた。

「やはり春の舞踏会でデビューしないと拙いのですか?」

シルヴィーは出来れば何処かの貴族の夜会でサラッとデビューしたかったが、王家と父親はそれを許してくれなかった。

「無理よ。シルヴィーのデビューを皆様、心待ちにしているのですもの」

煌めく青緑色の極上の宝石が、そのまま人になったような美少女が、うっとりとした顔でシルヴィーを見詰める。

「それに何処かの貴族の夜会でなんてことしたらそこの家、とんでもない目に遭うぞ」

確かに、主催者が軽い夜会のつもりで開いた場所に王族や王宮の重鎮がごっそり来たら、当主の胃は壊れるかもしれない。

それに周りが見れない頭の軽い貴族なら、自分が王家や重鎮に重要視されている、と誤解するかもしれない。

「父上もそこは考えたらしく、君のデビューの舞踏会を仮面舞踏会にする事にした」

王家としても、他のデビューをする子供達が社交会に顔を売る機会を潰すかもしれないが、シルヴィーに群がる男どもの、厄介な対処が減る方が大切だ。

「予め影武者を用意しておけばデビューは乗り切れますね」
「私達が親しげにしなければ、シルヴィーの噂だけを知っている方達はそちらに行くもの」

イザベルも随分と強かになったものだ、と思うが既に王太子の婚約者で、いずれ王妃になるのだから必要な強さかもしれない。

アレキサンド王国では年に何回か大きな舞踏会が開催される。社交会デビューをする子供達はそこでのデビューを願っているが、家柄が問題で出来ない子供も居る。

新年と春は特に大きな舞踏会の為、伯爵家以上の爵位を持たなければこの舞踏会に出ることも出来ない。
そう。男爵令嬢のヒロインはこの舞踏会に参加出来ない。

「デビューしてしまえば、後は入学を待つだけですね」

ゲームでは春の花盛りの頃に入学だが、この世界の殆どは日本と違い、夏の終わりに入学する。

ゲームの世界、なんて言ってられないことを此処で理解してくれれば良いのだが、どうやらカーボン男爵令嬢は現実を直視出来ないタイプのようだ。

「そう言えばエスコートは誰に頼むの?」
「お父様です」
「無難だな。エイン辺りだとジェフリー達が煩そうだ」

学園ではジェフリーとルーファスはウィリアムの側近候補としてウィリアムの側に居る筈だ。

「パトリック殿下は……相変わらずジルコニア伯爵の次女に纏わり付かれているの?」

学園にいる、もう1人の王子の顔を思い出しながら、今、彼に起こっている厄介事を口にした。

「あっちも必死だろな。あの女がパトリックの婚約者にならなきゃその後の計画は頓挫するから」

そちらも潰した方がいいのか、と思いつつ誰が適任か模索した。

「……確か、バロスのシンシア王女殿下も在学中でしたね」
「ああ。4年前の計画が王家に知られている事で肩身が狭そうだ」
「本人はとても聡明な方なのに……」

シンシア王女殿下を知っているイザベルが、残念そうな顔でため息を吐いた。

「バロス王は愚かですが、シンシア王女殿下なら良き王になるかも知れませんね」
「ラリマーが好きそうな案件だな」
「もう、すぐに硬い話にする」

ウィリアムとシルヴィーがクスッと笑うが、イザベルはプーっと頬を膨らませた。
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