[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月

文字の大きさ
上 下
14 / 114

サンプルが出来たので。

しおりを挟む
シルヴィーは急いでカインの仕事部屋に飛び込んだ。

「シルヴィー様、どうなさいました?」

カインが心配そうな顔でシルヴィーを見ているが、部屋にはまだ誰も居ない。

「約束に遅れるかと思って走ってきたの」
「大丈夫ですよ。まだ誰も来てませんから。それより、サンプルを確認して頂けますか?」

クスクス笑いながらカインが箱を差し出すから受け取ってみると中にはいくつかのサンプルが入っており、シルヴィーの目がキラキラ輝いた。

「凄い。お願いしていたとおりに出来てる」
「詳しいレシピも有りましたし、精霊王様や魔獣王様もお力を貸して下さいましたから」
「でも凄い。これで精霊さんや魔獣さん達も苦しまなくてすむね」
「優しいな。我らの眷属の事まで労るとは……」

突然背後に現れた魔獣王にシルヴィーは満面の笑みで振り返った。

「魔獣さん達も生きているのだし、仲良くなれたら嬉しいから」

子供らしい言葉だが、現状ではかなり難しい。

基本、魔獣も精霊も人間と関わりを殆ど持たない。時折、暴走した者達が人間の事を傷つける為冒険者や勇者が排除したり、アイテムの素材確保の為に交渉や説得したりする為、遭遇することが精々だ。

それでもシルヴィーは魔獣や精霊達と上手くやって行きたい、と望んでいる。

「人でなければすぐに番に迎えるが、惜しい事だ」

魔獣や精霊は人と姿が似ていても内在する力が違いすぎて深く関われば相手を弱らせるだけでなく命さえ奪ってしまう為、一時の戯れだけならまだしも添い遂げる事は出来ない。まして子孫を持つ事は神が望んでも出来ないのだ。

「よし、これで準備は整ったからあとはタイミングだけだね」

ガッツポーズをしそうなシルヴィーをカインと魔獣王は優しく見詰めていた。

「遅くなった」

書類を抱えてウィリアムがユーノと共に部屋に入って来た。

「その書類は?」
「根回しはして来たぞ。新しい法令は実行しているから、10日後は面倒な奴らを纏めて断罪してやる」

嬉しそうなウィリアムの顔だけ見ていれば美少年の笑顔なんだが見事に腹はここ数日で底が見えないほど真っ黒になっている様だ。

王族の、しかも王太子候補の彼が有能なのは国にとっても良い事なのだが……

「絶対ウィリアム殿下は敵にしちゃいけないってことだけはしっかり理解しました」
「はあ?それは俺のセリフだ。シルヴィー、俺は君だけは絶対に敵にしたくない。敵にしたら速攻で死ぬ」
「何ですかそれ!私、権力なんて持ってませんよ」
「ユーノに聞いたぞ。君は最年少で剣受式を合格したんだって。有り得ないから」
「うっ」

見た目だけなら小さな子犬か子猫達が戯れあっている様にも見えるが、話の内容は笑えない。

事実、権力を持ち有能なウィリアムもそうだが、魔力だけでなく剣の腕も確かで、切れ者なシルヴィーを敵に回したら勝てるものなど一握りどころか一つまみも居ないだろう。

だが、忘れてはならないことがある。
彼女達の強さは他の誰かから与えられたものでは無い。

愚か者を装っていたウィリアムの聡明さや有能さは彼自身の研鑽の賜物で、シルヴィーの強さや物事を客観的に判断できる冷静さも彼女自身が身に付けたもので、飾りでも幻でも無い。

「私だってあれが剣受式の試験だって知ってたら受けてません」
「エイン・アンバー第一騎士団長の秘蔵っ子なんだってな」
「エイン第一騎士団長とは赤ちゃんの時からの知り合いなので……」

言い訳をしててもシルヴィーがとんでもない実力がある事は事実。

「しかもエイン・アンバー第一騎士団長に勝って試験合格したって聞いたぞ」
「どうしようもない弱点を知ってますし、あんな打ち合い、二度と嫌です」

どれ程凄まじい試合だったか怖いもの見たさで見たかった様な気もするが、見なくて良かったと思うんだろうな、と言う気持ちもあった。

「それより、カインが見事なサンプルを作ってくれたの」

もうこの話は終わりだ、と言いたげに話を変えるシルヴィーにウィリアムは笑って頷いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...