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サンプルが出来たので。

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シルヴィーは急いでカインの仕事部屋に飛び込んだ。

「シルヴィー様、どうなさいました?」

カインが心配そうな顔でシルヴィーを見ているが、部屋にはまだ誰も居ない。

「約束に遅れるかと思って走ってきたの」
「大丈夫ですよ。まだ誰も来てませんから。それより、サンプルを確認して頂けますか?」

クスクス笑いながらカインが箱を差し出すから受け取ってみると中にはいくつかのサンプルが入っており、シルヴィーの目がキラキラ輝いた。

「凄い。お願いしていたとおりに出来てる」
「詳しいレシピも有りましたし、精霊王様や魔獣王様もお力を貸して下さいましたから」
「でも凄い。これで精霊さんや魔獣さん達も苦しまなくてすむね」
「優しいな。我らの眷属の事まで労るとは……」

突然背後に現れた魔獣王にシルヴィーは満面の笑みで振り返った。

「魔獣さん達も生きているのだし、仲良くなれたら嬉しいから」

子供らしい言葉だが、現状ではかなり難しい。

基本、魔獣も精霊も人間と関わりを殆ど持たない。時折、暴走した者達が人間の事を傷つける為冒険者や勇者が排除したり、アイテムの素材確保の為に交渉や説得したりする為、遭遇することが精々だ。

それでもシルヴィーは魔獣や精霊達と上手くやって行きたい、と望んでいる。

「人でなければすぐに番に迎えるが、惜しい事だ」

魔獣や精霊は人と姿が似ていても内在する力が違いすぎて深く関われば相手を弱らせるだけでなく命さえ奪ってしまう為、一時の戯れだけならまだしも添い遂げる事は出来ない。まして子孫を持つ事は神が望んでも出来ないのだ。

「よし、これで準備は整ったからあとはタイミングだけだね」

ガッツポーズをしそうなシルヴィーをカインと魔獣王は優しく見詰めていた。

「遅くなった」

書類を抱えてウィリアムがユーノと共に部屋に入って来た。

「その書類は?」
「根回しはして来たぞ。新しい法令は実行しているから、10日後は面倒な奴らを纏めて断罪してやる」

嬉しそうなウィリアムの顔だけ見ていれば美少年の笑顔なんだが見事に腹はここ数日で底が見えないほど真っ黒になっている様だ。

王族の、しかも王太子候補の彼が有能なのは国にとっても良い事なのだが……

「絶対ウィリアム殿下は敵にしちゃいけないってことだけはしっかり理解しました」
「はあ?それは俺のセリフだ。シルヴィー、俺は君だけは絶対に敵にしたくない。敵にしたら速攻で死ぬ」
「何ですかそれ!私、権力なんて持ってませんよ」
「ユーノに聞いたぞ。君は最年少で剣受式を合格したんだって。有り得ないから」
「うっ」

見た目だけなら小さな子犬か子猫達が戯れあっている様にも見えるが、話の内容は笑えない。

事実、権力を持ち有能なウィリアムもそうだが、魔力だけでなく剣の腕も確かで、切れ者なシルヴィーを敵に回したら勝てるものなど一握りどころか一つまみも居ないだろう。

だが、忘れてはならないことがある。
彼女達の強さは他の誰かから与えられたものでは無い。

愚か者を装っていたウィリアムの聡明さや有能さは彼自身の研鑽の賜物で、シルヴィーの強さや物事を客観的に判断できる冷静さも彼女自身が身に付けたもので、飾りでも幻でも無い。

「私だってあれが剣受式の試験だって知ってたら受けてません」
「エイン・アンバー第一騎士団長の秘蔵っ子なんだってな」
「エイン第一騎士団長とは赤ちゃんの時からの知り合いなので……」

言い訳をしててもシルヴィーがとんでもない実力がある事は事実。

「しかもエイン・アンバー第一騎士団長に勝って試験合格したって聞いたぞ」
「どうしようもない弱点を知ってますし、あんな打ち合い、二度と嫌です」

どれ程凄まじい試合だったか怖いもの見たさで見たかった様な気もするが、見なくて良かったと思うんだろうな、と言う気持ちもあった。

「それより、カインが見事なサンプルを作ってくれたの」

もうこの話は終わりだ、と言いたげに話を変えるシルヴィーにウィリアムは笑って頷いた。
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