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5-2(ロッソ視点)

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 ロッソとは政敵とも言える間柄だが、ふたりは幼少の頃から馬が合い、同い年ということもあってまるきり双子のように育ってきた。
 ハーモニア魔法学園でも同級で、アズリオ自身もビアンカと親交がある――

「腑抜けた顔するなクソ野郎。どういう了見だクソ馬鹿。なんで兄さんが管轄違いの憲兵を指揮して、迷子と殺し屋を探してるんだとにかくクソが」

 顔を合わせるなり、いきなりボロクソ罵られた。
 思わずロッソは絶句する。

 曲がりなりにも対等以上の立場の第二王子ロッソに、こんなあからさまに蔑む視線と言葉を投げかけるなど、王宮で耳目に触れれば恰好の攻撃材料にされる。
 アズリオは油断ない男で、こんなところでつまらないボロを出すわけがない。少なくとも、本気でロッソと争おうとするまでは。
 誰にも聞かれないと確信した上での、鋭い囁きだった。

 優男のふりをした腹黒毒舌家、と、そんな本性を知る者はごく身近な数人だけだ。

 反射的に頭に血が上って、ロッソは声を荒げて反駁はんばくした。

「国の中心、街の中に暗殺者が現れて、学園の生徒が襲われたんだぞ! 俺も殺されかけた! 指をくわえていられるか!」
「大声を出すなよ。兄さんの声は夜気に響きすぎる」
「ビアンカがさらわれた! それを知ってもお前は――」

 言いかけて。
 アズリオの冷ややかな目に、我に返った。

 彼は最初に言った。なぜ殺し屋と『迷子』なんかを、王子が必死になって探しているのかと。それも、こんな場違いな大騒ぎまでしながら。
 それが本題で、当然の事実だった。

 アズリオも知っているのだ。

「……すまない。お前だって、ビアンカのことを」
「自分のものみたいに言うんだな――っと、言うんだね。彼女は誰のものでもないよ。まだ、ね」
「そうだな。そうだった」

 伊達に長年の腐れ縁ではない。
 アズリオもまた、ビアンカに強い想いを寄せるひとりであるのをロッソは知っていた。

 今日の件に至っては、ロッソが抜け駆けしてビアンカを街遊びに誘った帰りを狙われた襲撃だ。
 しこたま殴られても仕方ないところを、最初の面罵だけで済ませてくれたのはアズリオの情けだった。

 いや。と思い直す。
 アズリオがこだわっていたのはそこではない。

「……俺自身はともかく、憲兵たちの失態を街の住人に見られている。さらわれたのは四大属性を外れた生徒、希少な治癒の光魔法の候補生だ。失えば医療と魔法技術の発展、合わせて10年は遅れるかもな。学園外に情報が漏れてビアンカは狙われた。その失態は学園のものか、国家のものか? 他にもあるが、いずれにせよすべて王家の沽券に関わる――これでいいか?」
「そうだね。即興でそれだけ言えるなら冷静なほうだ」
「体面っていうのは面倒だな……」

 自分の肌には合わない。
 そういう意味では、次代の王にはアズリオのほうがずっと相応しいと思っていた。
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