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 女性としての慎みのかけらもなかったが、これはこれである意味、女らしさの本質の一面ではあったかもしれない。
 傲慢で、ワガママで、世界のすべては自分のもの、自分に都合よく回る地球はぐるま
 そうであるべきと内心思うだけなら勝手だが、他者にそれを強制すれば角が立つ。
 しかるに、それを自己完結で実現している分だけ、彼女のこの痴態などは身のほどを弁えた謙虚であると……ギリギリ、まあそう言えなくもないだろう。

 迫る人生の終幕まで1分を切った者に、今さら褒めそやしも侮蔑も関係あるまい。
 死ねばみな仏。
 それを許して受け入れてあげるのが、日の本の者らしい慈悲と寛容ではなかろうか?

『普段はあれでしたが、いいところもいっぱいあったんです、ううう……』

 などと、のちに彼女の身の回りの家族や友人は涙ながらに語ってくれるわけだし。

 順風満帆の栄耀栄華。
 容姿端麗で頭脳明晰、完璧超人を自称する彼女。
 才気煥発で脱俗超凡、超絶無比の豪放磊落、普段の飲みの席では誰かが悪酔いして吐いたら嫌な顔ひとつせず率先して片付けてあげるなど、なんだかんだ気が利いてるし、決して嫌味な人物ではないのだ。
 ちょっとばかり大成功して悪ノリが過ぎた、今日の日のイキり散らしぐらい大目に見てあげてもいいと思うのだが。

 どうだろう。
 どうか許してあげてほしい。
 深酔いで注意力が欠けてしまって、うっかり赤信号に飛び出してしまった彼女のことを。

「あえ?」

 プワー――――っ!

 高らかなクラクション。
 気づけば目の前に迫るトラックの車体。
 薄汚れたバンパーと車体前部が、彼女の身体に激突するまで3、2、1――

「――うそお?」

 今際いまわの言葉は、そんな間の抜けた疑問符でしかなかった。



 ――こうして、完全無欠の英雄豪傑ロックンローラー、いつか成り上がって頭角を現せば日の本を背負って立つ未来もあり得た傑物こと彼女、『私』の人生は終わったわけだが。
 まさかその後も人生が続くライフ・ゴーズ・オンとは誰も思わなかった。
 誰も彼も彼女もなにも、きっと実在するなら世界の神ですら。

 この流れならだいたい分かるだろうが、彼女はこの後、異世界に転生する。
 生前にプレイした乙女ゲーム、『ハーモニック・ラバーズ』の世界に。
 そこで存分に前世の栄華栄達、そのツケを利子と利息をつけて支払い、なにもかもままならないまま本当に文字通り何度も死ぬほど苦労するハメになるわけだから――

 まあそんなわけで、この時この場で起こったことに関しては、どうか大目に見て笑って許してあげてほしい。
 かしこ。
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