376 / 389
第二部 獣人武闘祭
第376話
しおりを挟む
「えっ?」
「あたし、これまでいっぱいお薬飲んでたから、嗅覚が鈍ってたんだけど、昨日、『薬物総排出』っていうのをやったし、今日は一錠も飲んでないから、凄く鼻が冴えてるの。だから、ハッキリ分かる。ノエルの匂いがする」
「それ、本当? でも、ノエルさんはレガリオに帰ったって……」
「本当だってば。ほら、こっち」
タマラは、ぐいぐいと私の袖を引っ張り、どこかに連れて行こうとする。
騒々しさに、ミャオが目を覚ました。
「もう、やかましいニャ~……いったいなんニャ~……? せんせぇ~……」
「いや、その、タマちゃんが……」
「ほら、早く来て、ディーナ!」
こうなっては、タマラの納得がいくまでは眠らせてもらえそうにもない。私は渋々、彼女について行くことにした。ミャオも何事かとベッドから飛び降り、私たちについてくる。
自室を出て、通路に出た。
まだまだ夏真っ盛りであり、深夜とはいえ外は暑いだろうが、フロア全体に冷房がかかっており、ひんやりと肌寒いくらいだ。
当然と言えば当然だが、深夜2時に、通路を歩いている人間は、私たちだけである。ふぁ~あ……後から後から、あくびが出てくるわ。今にも閉じそうなまぶたをなんとか持ち上げ、私はちらりと窓を見た。
通路の窓から広がるグランディアの町は、いまだに無数の明かりが灯っている。こんな時間でも、働き、あるいは遊んでいる人が、たくさんいるんでしょうね……
そんなことをぼんやりと考える私の腕を引っ張るようにして、タマラはある部屋の前に来た。
「ここ! ここ! ここからノエルの匂いがする!」
「んなぁ~……タマラちゃん~……夜中にそんなに騒いじゃ駄目にゃ~……」
寝ぼけまなこを擦りながら、ミャオが言う。
タマラは、そんなことどうでもいいと主張するように、叫んだ。
「駄目、鍵がかかってる! ディーナ、どうしよう!?」
どうしようと言われても……
部屋に帰って寝ればいいんじゃないかな……
そう言いかけた私だったが、あまりにも真剣なタマラの表情に、言葉を飲み込んだ。どうやらタマラには、ここにノエルがいるという確信があるようだ。
なんとかして鍵を開けてあげたいけど、私にそんなスキルはない。
さて、どうしたものかしら。
困っていると、ミャオがつかつかと前に出てきた。
「先生、タマラちゃん、ちょっとどいててニャ」
「あたし、これまでいっぱいお薬飲んでたから、嗅覚が鈍ってたんだけど、昨日、『薬物総排出』っていうのをやったし、今日は一錠も飲んでないから、凄く鼻が冴えてるの。だから、ハッキリ分かる。ノエルの匂いがする」
「それ、本当? でも、ノエルさんはレガリオに帰ったって……」
「本当だってば。ほら、こっち」
タマラは、ぐいぐいと私の袖を引っ張り、どこかに連れて行こうとする。
騒々しさに、ミャオが目を覚ました。
「もう、やかましいニャ~……いったいなんニャ~……? せんせぇ~……」
「いや、その、タマちゃんが……」
「ほら、早く来て、ディーナ!」
こうなっては、タマラの納得がいくまでは眠らせてもらえそうにもない。私は渋々、彼女について行くことにした。ミャオも何事かとベッドから飛び降り、私たちについてくる。
自室を出て、通路に出た。
まだまだ夏真っ盛りであり、深夜とはいえ外は暑いだろうが、フロア全体に冷房がかかっており、ひんやりと肌寒いくらいだ。
当然と言えば当然だが、深夜2時に、通路を歩いている人間は、私たちだけである。ふぁ~あ……後から後から、あくびが出てくるわ。今にも閉じそうなまぶたをなんとか持ち上げ、私はちらりと窓を見た。
通路の窓から広がるグランディアの町は、いまだに無数の明かりが灯っている。こんな時間でも、働き、あるいは遊んでいる人が、たくさんいるんでしょうね……
そんなことをぼんやりと考える私の腕を引っ張るようにして、タマラはある部屋の前に来た。
「ここ! ここ! ここからノエルの匂いがする!」
「んなぁ~……タマラちゃん~……夜中にそんなに騒いじゃ駄目にゃ~……」
寝ぼけまなこを擦りながら、ミャオが言う。
タマラは、そんなことどうでもいいと主張するように、叫んだ。
「駄目、鍵がかかってる! ディーナ、どうしよう!?」
どうしようと言われても……
部屋に帰って寝ればいいんじゃないかな……
そう言いかけた私だったが、あまりにも真剣なタマラの表情に、言葉を飲み込んだ。どうやらタマラには、ここにノエルがいるという確信があるようだ。
なんとかして鍵を開けてあげたいけど、私にそんなスキルはない。
さて、どうしたものかしら。
困っていると、ミャオがつかつかと前に出てきた。
「先生、タマラちゃん、ちょっとどいててニャ」
0
お気に入りに追加
3,262
あなたにおすすめの小説

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
向原 行人
ファンタジー
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる