二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第二部 獣人武闘祭

第347話(実況席)

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「しかし、勝利を確信して喜ぶミャオ選手は、ミス・マウンテンゴリラ選手の意識が、まだ完全に消えていないことに気づくのが遅れてしまった……」

「その隙を、ゴリラのねーさんは、見事に突いた。体重をかけ、押し倒し、喉をマットと腕で挟む形で押しつぶす、特殊な形のチョーク・スリーパー。あの場で、あれ以上の技はない。素晴らしい判断やったで」

「なるほど……それにしても、いい試合でしたね」

「せやな。ベスト4に恥じん、ええ試合やった」



※※※※※【ディーナ視点】※※※※※



 私は、意識を失ったままのミャオを抱え、リングを降りようとする。
 その背中に、声が掛けられた。

「なっちゃん」

 私は振り返った。

 ミャオの猛攻で、体中あざだらけのアニーが、『呼び止めたものの、どういう話をすればいいのか分からない』というように、口をきゅっと結んでいる。

 私は微笑を浮かべ、腕の中のミャオに一瞬視線を落とし、言った。

「この子、強かったでしょう?」

 アニーは、頷いた。
 私は、さらに言う。

「あなたも、強かった。いい試合だったわ」

 アニーは、何か言おうとして、また、黙り込んだ。

 いいのよ、アニー。
 何も言わなくて。

 見事な戦いだった。
 それで充分。

 私は、アニーに向かって大きく頷き、リングを降りた。



※※※※※【ミャオ視点】※※※※※







 気がつくと、選手控室だった。
 僕は、長椅子に寝かされていた。
 先生がホッとしたように、言った。

「ミャオ、目が覚めたのね。良かった」

 僕は、すぐに悟った。

 僕は、負けたニャ。

 負けたニャ。

 目から、涙が溢れた。

 泣いても泣いても、涙は枯れなかった。

 先生は、何も言わなかった。

 ただ、静かに。
 ただ、優しく。

 僕の額を、撫でてくれた。
 天下無双の闘士とは思えないほど、たおやかな手だった。



※※※※※【ディーナ視点】※※※※※



「そろそろ、宿に帰りましょうか」

 ミャオの気持ちが落ち着いた頃を見計らって、私は言った。
 ミャオは、こくんと頷き、私たちは隣り合って選手控室を出る。
 その道すがら、ミャオは私の袖を引き、聞いてきた。

「先生、僕の試合、どうだったニャ……?」

 私は、正直な気持ちを、ありのままに吐露する。

「素晴らしい試合だったわ。負け試合で言うのもなんだけど、今までの中で、一番だって言ってもいい。寝技の防御、タックルに対する膝での迎撃、どっちも見事だった。そして最後の連打。あれを煮詰めていけば、あなたはもっともっと強くなれる。私が保証するわ」
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