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第二部 獣人武闘祭

第324話

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「どけ。邪魔だ」

 ノエルは、蹴飛ばされた。そんなに大した力ではなかったが、ノエルはよろめき、再び尻もちをついてしまう。

「ノエル!」

 タマラが、叫んだ。
 私は立ち上がり、ノエルを蹴飛ばした相手の前に立つ。

「ちょっと。謝ってるのに、ここまですることないでしょ」

 言葉に、自然と怒気がこもる。
 そこで、初めて気がついた。
 こいつ、かなり身長があるから男だと思っていたが、女だ。

 もっとも、華麗なドレスなど着ておらず、パーティーのTPOを無視するように、革製のジャケットを着ている。顔中、古い傷だらけだ。恐らく、体も傷だらけなのだろう。

 この顔、見覚えがある。
 J1グランプリ本戦出場者で、前回の準優勝者でもあるドラム・ゼファーだ。
 ドラムは私を見下ろすと、大げさに口笛を吹いた。

「てめえがこのガキの保護者か? へっ、何だその恰好、花嫁のコスプレかよ? 馬鹿丸出しだぞ。邪魔なんだよ、こんなところでガキにうろちょろされるとよ。今度からは動き回らねぇように、首輪と紐でもつけとけ、大人の義務ってやつだ」

 あまりにも横暴な態度に、私は言い返そうとする。その時、ドレスの裾を、くいくいと引かれた。ノエルだ。今にも零れ落ちそうなほどの涙を目の端に溜めて、ふるふると首を横に振っている。

 私は、ハッとした。

 ここで大きなトラブルになれば、選手であるタマラもミャオも困るのだ。ノエルは、恐怖と悲しみをグッとこらえて、『争ってはいけない』と私に訴えかけているのである。

 私は彼女の気持ちを汲み、喉の入り口まで出かかった暴言を、飲み込んだ。

 大きな、泣き声が聞こえる。タマラだ。視線をやると、不穏な空気に耐えられなくなったのか、わんわんと声を上げて泣いている。ドラムは、嘲りに溢れた、嫌な笑みを浮かべた。

「おっ、知ってるぜ、こいつ。レガリオの選手だろ? くっくっく、冗談キツイぜ、おい。こんなことでめそめそ泣くようなガキが、よく本戦に残れたな。役員に賄賂でも渡したんじゃねーのか?」

「……もういいでしょう。どこかに行ってちょうだい。ここで大きなトラブルになれば、あなただって困るんじゃないの?」

 私は、苦虫をかみつぶしたような顔でドラムに言った。
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