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第二部 獣人武闘祭
第311話(アニー視点)
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「こういう稼業をやってますとね。よく、水商売の女と会うんですわ。でね、そいつらがね、少し優しくしてやると、まあぺらぺらぺらぺら、悲しい身の上話を、喋る喋る喋る。心から気を許せる相手もおらず、寂しいんでしょうね。だから、仮初でも甘えられそうな相手を見つけたら、自分の気持ちを吐き出したくなるんでしょう」
「…………」
「そんな連中を、私は『馬鹿で哀れな女たち』だと蔑んでいました……でもね……」
フォルスさんは、私をじっと見る。
「私も、その『馬鹿で哀れな女たち』の一人だったみたいですわ……くくっ」
それは、寂しそうな笑いだった。
「フォルスさん……」
「……この試合はね、『はなむけ』だったんですよ。ボスから私へのね」
「『はなむけ』?」
「ええ、名目上は、組織を抜ける『落とし前』ってことになってますがね」
よく、意味が分からなかった。
首を捻る私を見て、フォルスさんは笑った。
「あんた、本当に素直な人だ、感情が全部顔に出る。だから、あんなマスクで顔を隠すんですかい?」
「い、いや、あれはまあ、色々ありまして……それより、わかりやすく、順を追って説明してもらえますか?」
「わかりました。……私ね、こう見えて、ずっと昔は、堅気のキックボクサーだったんですよ。戦績は16戦16勝16KO。自分で言うのもなんですが、なかなかのもんでしょう?」
「へえ……」
私は、試合での彼女の見事なキックを思い出した。
「で、とうとうタイトルマッチです。そりゃあ意気込みましたよ、トレーニングにも熱が入りました。ところが、その時のチャンピオンのバックに、悪い組織がついてましてね。その連中が、うちのジムに対して、八百長を持ちかけてきたんですわ。大金を払うから、私に負けてくれってね」
「もちろん、フォルスさんはそんな話、受けなかったんでしょう?」
「私はね。でも、貧乏ジムの会長とトレーナーは違った。あっさり承諾し、私に言うんです。『今回は負けて、次の機会に勝てばいい。なあ、ここまで育ててやった恩返しと思って、金を儲けさせてくれよ』って。少なからずショックでしたよ。私もまだ若くて、純真だったんでね」
「そんな……」
タイトルマッチは、普通の試合とは違う。よっぽどのネームバリューか、興行的にうま味のある選手でなければ、一度負けてすぐ再戦など、させてもらえるわけがない。
それに、反社会的な組織を後ろ盾にして、平然と汚い手を使うチャンピオンだ。『次の機会』とやらがやって来ても、まともな試合ができるとは思えない。フォルスさんは、どれだけ悔しかったことだろう。
「…………」
「そんな連中を、私は『馬鹿で哀れな女たち』だと蔑んでいました……でもね……」
フォルスさんは、私をじっと見る。
「私も、その『馬鹿で哀れな女たち』の一人だったみたいですわ……くくっ」
それは、寂しそうな笑いだった。
「フォルスさん……」
「……この試合はね、『はなむけ』だったんですよ。ボスから私へのね」
「『はなむけ』?」
「ええ、名目上は、組織を抜ける『落とし前』ってことになってますがね」
よく、意味が分からなかった。
首を捻る私を見て、フォルスさんは笑った。
「あんた、本当に素直な人だ、感情が全部顔に出る。だから、あんなマスクで顔を隠すんですかい?」
「い、いや、あれはまあ、色々ありまして……それより、わかりやすく、順を追って説明してもらえますか?」
「わかりました。……私ね、こう見えて、ずっと昔は、堅気のキックボクサーだったんですよ。戦績は16戦16勝16KO。自分で言うのもなんですが、なかなかのもんでしょう?」
「へえ……」
私は、試合での彼女の見事なキックを思い出した。
「で、とうとうタイトルマッチです。そりゃあ意気込みましたよ、トレーニングにも熱が入りました。ところが、その時のチャンピオンのバックに、悪い組織がついてましてね。その連中が、うちのジムに対して、八百長を持ちかけてきたんですわ。大金を払うから、私に負けてくれってね」
「もちろん、フォルスさんはそんな話、受けなかったんでしょう?」
「私はね。でも、貧乏ジムの会長とトレーナーは違った。あっさり承諾し、私に言うんです。『今回は負けて、次の機会に勝てばいい。なあ、ここまで育ててやった恩返しと思って、金を儲けさせてくれよ』って。少なからずショックでしたよ。私もまだ若くて、純真だったんでね」
「そんな……」
タイトルマッチは、普通の試合とは違う。よっぽどのネームバリューか、興行的にうま味のある選手でなければ、一度負けてすぐ再戦など、させてもらえるわけがない。
それに、反社会的な組織を後ろ盾にして、平然と汚い手を使うチャンピオンだ。『次の機会』とやらがやって来ても、まともな試合ができるとは思えない。フォルスさんは、どれだけ悔しかったことだろう。
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