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第二部 獣人武闘祭
第308話(アニー視点)
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『西方選手控室』
そう書かれたドアの前に、私は立っていた。
無数の打撲で、体のあちこちがじんじんと熱を持っている。
試合中の高揚感も切れ、どこもかしこも痛い。
でも、私は、ここに来ずにはいられなかった。
フォルスさんの意識が戻ったと聞いて、マスクもつけずに、かけつけた。
小さく、ノックをする。
「誰だい」
フォルスさんの声じゃない。
低い、男の人の声。
私は答えた。
「ミス・マウンテンゴリラです」
しばしの沈黙。
「あいてるよ」
また、低い、男の人の声。
「失礼します」
私は、ドアを開けた。
室内は、私のいた東方選手控室と全く同じ作りである。
違うのは、『パワー・オブ・ゴリラ』の若手レスラーの代わりに、いかにも怖そうな二人の青年と、パステルスーツに身を包んだ小柄なおじさんがいること。そして、長椅子をベッド代わりにして、フォルスさんが横たわっていることだった。
フォルスさんは体を起こして、短く言った。
「よう」
「どうも」
私も、短く言った。
小柄なおじさんが、満面の笑みで私の背を叩く。
「い~い試合だったなあ、アニー・アリエスさん」
私は、驚いた。
「どうして、私の本名を……」
おじさんは、笑みの上に笑みを重ねるように、笑った。
「そりゃ知ってるさ。マスクをつけてても、一目でわかったよ。なんたって、俺はあの勇者ラジアスの大ファンだからな。ラジアスの仲間だった奴は、全部覚えてる。ついでに言うと、あんたのこともファンだったんだよ。愛嬌ある顔してるからね。大怪我したっての、昔の新聞で見たけど、もう、大丈夫なのかい?」
「は、はい。もうすっかり……」
「そうかい。そりゃよかった」
ミス・マウンテンゴリラならともかく、アニー・アリエスにファンがいたとは驚きである。私は、恐縮した。フォルスさんが私とおじさんのやり取りを見て、おかしそうに笑う。
「くくっ、そんな立派なお人に、『落とし前つけろ』と迫ってたなんて、自分の間抜け加減に呆れちまいますよ。でも、本当に、あの時、争いにならなくてよかった。あんたのガールフレンドに、感謝しなきゃね」
フォルスさんは、小さく片目をつぶった。
それは、マフィアお抱えの殺し屋には似つかわしくない、ちょっぴり子供じみた、可愛らしい仕草だった。……この人もしかして、私が思ってるよりも、ずっと若い女の子だったりするのかもしれない。
そう書かれたドアの前に、私は立っていた。
無数の打撲で、体のあちこちがじんじんと熱を持っている。
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でも、私は、ここに来ずにはいられなかった。
フォルスさんの意識が戻ったと聞いて、マスクもつけずに、かけつけた。
小さく、ノックをする。
「誰だい」
フォルスさんの声じゃない。
低い、男の人の声。
私は答えた。
「ミス・マウンテンゴリラです」
しばしの沈黙。
「あいてるよ」
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「失礼します」
私は、ドアを開けた。
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「どうも」
私も、短く言った。
小柄なおじさんが、満面の笑みで私の背を叩く。
「い~い試合だったなあ、アニー・アリエスさん」
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「どうして、私の本名を……」
おじさんは、笑みの上に笑みを重ねるように、笑った。
「そりゃ知ってるさ。マスクをつけてても、一目でわかったよ。なんたって、俺はあの勇者ラジアスの大ファンだからな。ラジアスの仲間だった奴は、全部覚えてる。ついでに言うと、あんたのこともファンだったんだよ。愛嬌ある顔してるからね。大怪我したっての、昔の新聞で見たけど、もう、大丈夫なのかい?」
「は、はい。もうすっかり……」
「そうかい。そりゃよかった」
ミス・マウンテンゴリラならともかく、アニー・アリエスにファンがいたとは驚きである。私は、恐縮した。フォルスさんが私とおじさんのやり取りを見て、おかしそうに笑う。
「くくっ、そんな立派なお人に、『落とし前つけろ』と迫ってたなんて、自分の間抜け加減に呆れちまいますよ。でも、本当に、あの時、争いにならなくてよかった。あんたのガールフレンドに、感謝しなきゃね」
フォルスさんは、小さく片目をつぶった。
それは、マフィアお抱えの殺し屋には似つかわしくない、ちょっぴり子供じみた、可愛らしい仕草だった。……この人もしかして、私が思ってるよりも、ずっと若い女の子だったりするのかもしれない。
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