二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第二部 獣人武闘祭

第306話(実況席)

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「あらー、とうとう全部見えちゃった……」

「なんや、めっちゃ可愛い顔しとるやん。隠す必要ないやんか」

「うーん、もしかしたら、可愛い顔だから、隠してたのかもしれないですよ?」

「えっ、意味わからんわ。可愛いのに、なんで隠すん?」

「だって、レスラーとしては迫力に欠けるじゃないですか。怖いマスクかぶって、ミス・マウンテンゴリラって名乗った方が、存在感ありますよ」

「ええー……ますます意味わからん……可愛くて強い方がええに決まっとるやないの……」

「まあ、考え方は人それぞれですよ。それより、見てください。凄いですよ、ミス・マウンテンゴリラ選手、怒りの猛反撃です!」

「おお、まるで暴走機関車や、殺し屋のねーちゃん、防戦一方やないか」

「この中継をご覧の皆さん、聞こえるでしょうか!? 会場中から、ゴリラコールが沸き上がっています! 非道な仕打ちをした悪の女殺し屋への制裁を、皆期待しているようです!」

「なんや、マスク剥がそうとしとるときは、歓声あげて殺し屋ねーちゃんの方を応援しとったくせに、調子いいやつらやなー」

「大衆とはそういうものです」

「さよか」



※※※※※【アニー視点】※※※※※



 側頭部への右フック。
 左のボディブロー。
 そして右のローキック。

 フォルスさんは、私の攻撃で、右に左に体をふらつかせる。
 苦しそうな顔は、本気なのか、演技なのか分からない。

 どちらでも、構わなかった。
 どちらでも、私の行動は、変わらない。

 ここは、勝負を決めに行くところ。

 どんな試合にもタイミングがある。
 そこで決められなきゃ、お客さんがしらけちゃうタイミングが。

 私は、フォルスさんの胴を、両手でがっちりと捕まえた。
 それは、外見より、ずっと細い胴だった。

 この体格で、私のプロレスにつきあってくれたのか。
 得体のしれない殺し屋に対して、友情に近い思いが胸に浮かぶ。

 ありがとう。

 私の呟いた小声は、観客の大歓声でかき消えた。
 フォルスさんの腰を掴んだまま、思いっきり私はのけぞった。

 私の得意技。
 フロント・スープレックス。

 衝撃が、全身に伝わってくる。
 フォルスさんは、リングで大の字になったまま、気絶していた。

 私は、天に拳を突き上げ、ゴリラの雄たけびを上げる。

 お客さんも、それに合わせるように拳を上げ、大歓声が一斉に轟いた。それは、リング外からの「勝者、ミス・マウンテンゴリラ!」という声をかき消すほどだった。
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