二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第二部 獣人武闘祭

第305話(実況席)

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「えーっ! そんなことやっちゃって、いいんですか!?」

「まあ、ルールブックには書いてないな。『相手のマスクを取っちゃ駄目』って」

「でもでも、そんなことしたら、ミス・マウンテンゴリラ選手がかわいそうじゃないですか!」

「……そもそも、なんでマスクかぶっとるん?」

「えっ、私に言われたって、知りませんよ。覆面レスラーだからでしょ?」

「だから、あのねーちゃん。なんで覆面レスラーなん?」

「そ、そんなの、私に言われても知りませんよぅ……」

「それにしても、客の盛り上がりが尋常やないな」

「そりゃあ、覆面レスラーの正体がわかるんですから、盛り上がるでしょう」

「なるほどな。言われてみると、ゴリラのねーちゃんの素顔がどんなもんか、ちょっと興味湧いてきたわ」



※※※※※【アニー視点】※※※※※



 おいおいおい、この女、なんてことしやがる。

 俺のマスクは、すでに三分の一が剥がされていた。1cm……また1cm、マスクがめくれていくたびに、観客のどよめきが増えるのが分かる。

 へえ。

 皆、そんなに俺の素顔が気になるのかい。
 俺の素顔が見たくて、そんなに興奮してくれるのかい。

 いいね。
 よく考えたら、隠す意味なんて、ほとんどねえ。

 そうさ。

 俺は。
 私は。

 このマスクと、ミス・マウンテンゴリラって名前が、好きじゃないんだから。

 もういいや。
 見せちゃお。

 ふふ。

 フォルスさん。
 ありがとうね。
 こんなに盛り上げてくれて。

 あなた、変わった人ね。
 途中から薄々気づいてたけど。
 どうして、私のプロレスにつきあってくれるの?

 マスク剥ぎだって、お客さんが沸くと思って、やってるんでしょ?

 ほんと、不思議な人。

 あっ。
 マスク、取れちゃった。

 さよなら、ミス・マウンテンゴリラ。
 後は、まかせてね。

 フォルスさんは、高々とマスクを掲げ、雄たけびを轟かせる。
 それに呼応するように、お客さんたちは大歓声を上げた。

 まったく、盛り上げ上手なんだから。
 殺し屋にここまでされちゃったら、プロのメンツ、丸つぶれじゃない。

 私は、若干オーバーに両手で顔を覆い、その場に蹲る。

 フォルスさんは、私の髪を掴み、引き起こすと、無理やり私の手をどかそうとする。少し手が動くと、私は必死に手を戻す、その手を、またフォルスさんが引っ張る。

 攻防は、三十秒ほど続いた。

 うん。
 こんなもんかな。
 これ以上やると、間延びしちゃうもんね。

 私は、抵抗するのをやめた。
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