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第二部 獣人武闘祭

第302話(実況席)

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「さあ、ゴングが鳴らされました。不穏な空気から、どんな試合が展開されるのか!」

「おい、嘘やろ。組み合ったで。殺し屋のねーちゃん、アホちゃうか。いくらなんでも、プロレスラーと取っ組み合いして、勝てるわけないやろ」

「本当ですね。何かの作戦でしょうか?」

「作戦っちゅうてもなあ、組み技は完全にレスラーの土俵や。よっぽどの奇策でもない限り、どうしようもないやん。ふふふ……レスラーなのに土俵とは、これいかに、やな」

「あっ、頭突き、頭突きです! フォルス選手、ミス・マウンテンゴリラ選手の顔面に、頭突きを食らわせました」

「うわー、ありゃ痛いな。鼻血でとるやん」

「フォルス選手、もう一度頭を振りかぶり、再度頭突きに行く! おっと、これは外されました! そしてそのまま、ミス・マウンテンゴリラ選手のベアハッグだ!」

「ふふふ……ゴリラなのにベアハッグとは、これいかに、やな」



※※※※※【アニー視点】※※※※※



 いてえ。
 俺のキュートな鼻が台無しだぜ。

 でも、捕まえたぞ。

 どうだ、苦しいだろう。

 ベアハッグ――単純に訳すと、熊の抱きつきだ。
 ふふ、ひねりも何にもない技名だと思うかい?

 俺も、そう思うよ。

 だけどこの技。
 素人さんが思ってるより、ずっとヤバイ技なんだぜ。

 相手に抱きつき、締め上げるだけっていうシンプル極まりない技だが、レスラーの力で、背骨と肋骨を圧迫されるんだ。普通の人間なら――いや、鍛えた人間が相手でも、時間をかければ、このまま背骨をへし折ることだってできる。

 さあ、どうする? どう逃げる? 路上の戦いなら、あんた自慢の牙で噛みついてくるところだろうが、ここじゃあ、そいつは反則だ。

 おや?
 嘘だろ?
 逃げる手段がないのか?

 おいおいおい、これで決まるような試合じゃ、客から銭は取れないぜ。

 俺は、フォルスを解放した。
 大きく両手を広げ、どんなもんだと言うようにアピールする。

 客が沸くのが、分かった。

 いいね。
 ぞくぞくする。

 フォルスはせき込みながら、俺を見上げた。

 へえ。
 あんた、そんな色っぽい顔するんだな。

 こうしてよく見りゃ、けっこうな美人じゃねぇか。

 そそるぜ。
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