二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第二部 獣人武闘祭

第282話

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 午後五時。

 私たちは宿を出た。
 J1グランプリの試合場である、グランディアスタジアムに向かうためだ。

 グランディアスタジアムは、名前の通り本来は野球場だが、グランディアで最も収容人数が多い施設であるため、今回J1グランプリに使われることになったらしい。確かに、目を見張るような、立派な建物である。

 私たちは、選手控室に入った。

 ここに来るまでに三十分かかったので、試合までは残り一時間三十分。ミャオは、ストレッチをしてから二~三回ジャンプし、一度外に出ると、スタジアムの周りをゆっくりとしたペースで一周した。

 試合開始まで、残り一時間十分。

 私たちは、ミット打ちを開始した。ありがたいことに、選手控室には、パンチングミット、キックミット、大型のボディミット、すべて揃っていた。

 ミャオは多少飛ばし気味にミットを打つ。

 私は、彼女を諫めた。

 この程度でミャオのスタミナは消費されないが、ウォーミングアップであまり入れ込みすぎると、いざ試合で、気が抜けたり、逆に闘志が昂り過ぎて、自分を見失うことがある。

 ゆっくり、ゆっくりでいいのだ。
 ゆっくり、自分の闘志を、高めていくのだ。

 試合開始まで、残り四十分。

 私はミャオと、寸止めの形で、軽くスパーリングをやった。

 試合開始まで、残り二十分。

 私たちは、すべてのウォーミングアップを終えていた。
 ミャオは再びストレッチを始める。

 試合開始まで、残り十分。

 係員が、ミャオを呼びに来た。私とミャオは頷き合い、試合場に向かう。予選と違い、本戦はセコンドがつくことが許されるのだ(ほとんどの選手はセコンドをつけないらしいが)。

 試合開始まで、残り五分。

 スタジアムは、凄まじい熱狂に包まれていた。うねるような歓声と、幾万の視線が、東方入場口から試合場に入ってきたミャオへと一斉に注がれる。

 ミャオは、落ち着いていた。

 試合開始まで、残り三分。

 ミャオは、リングに上がった。
 セコンドの私は、リングの外だ。

 もう、物理的には、何があっても彼女を助けてやれない。

 J1グランプリでは、選手が危険な状態でも、セコンドの意志で試合を止めることはできない。聞いた話によると、スポンサー企業が『J1グランプリくじ』という名目で賭けをおこなっているらしく、役員でも簡単に試合を止めることはできないそうなのだ。

 レフェリーも、リング外から見守るだけで、危ないと判断しても、ストップはしてくれない。勝敗は、どちらかが明らかに戦闘不能になるか、ギブアップを叫ぶ(あるいは、相手選手へのタップ)のみだ。

 ちなみに、試合時間は1ラウンド10分。インターバルが2分で、引き分けは無し。決着がつくまで、延々とラウンドが重ねられていくシステムだ(もっとも、激しい戦いにより、ほとんど1ラウンド以内で勝負がついてしまうらしいが)。

 西方入場口から、あのネルロが入って来た。
 その長身と、異様な風貌に、観客が沸く。

 彼女は、競泳水着のような武闘服を着ていた。
 普通の道着では、すぐに粘液を吸って重たくなってしまうからだろう。

 ミャオはといえば、相変わらずのタンクトップにショートパンツだ。

 二人が、リング上で対峙する。

 試合開始まで、残り一分。

 頑張って、ミャオ――
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