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第二部 獣人武闘祭

第278話

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 蹴った方も蹴った方なら、防いだ方も防いだ方だ。
 どちらの反応速度も、常軌を逸している。

 これから、さらなる死闘が始まるのか。
 私は、緊張に汗ばんだ手を、硬く握りしめる。

 突然、シルヴァが言った。

「やめや」

 私とカズネは、きっと同じような顔で、きょとんとしていることだろう。

「これ以上やったら、マジんなってまうわ。嬢ちゃん、試合控えとんのに、ガチンコの勝負したらあかんやろ」

 その通りだった。

 この再選考会で、正式に本戦出場選手となったカズネは、遠からず誰かと試合をすることになる。その前に、役員であるシルヴァが、万に一つでも怪我などさせたら、責任問題である。だがカズネは、闘志が昂ったところでおあずけを言い渡されたのが不満のようで、少しばかり食い下がる。

「い、いえ、私なら大丈夫です。もう少し、勉強させてください」

「あかんあかんあかん。怪我したら、どないするんや。試合前は、きっちりコンディション整えなあかん。ええか。他の選手を押しのけて本戦に出るもんにはな、良い試合をする責任があるんや。忘れたらあかんで?」

 カズネは、ハッとしたようだった。

「そ、そうですね。私ったら、また、自分の気持ちを優先させて……。無礼をお許しください、シルヴァさん」

 シルヴァは、カラカラと笑った。

「ええて、ええて。ふふっ、もっとも、これ以上続けたら、怪我したんはうちの方やったかもしれへんけどな」

「そんな……」

「ほんま、末恐ろしい嬢ちゃんや。二ヶ月で免許皆伝っちゅうのも、嘘やないな。こりゃ、優勝候補筆頭やで」

 私は、ホッとしたような、もうちょっと先が見たかったような気分で、天を仰いで息を吐く。すると、ちょうど視界に、体育館の時計が入った。

 午後四時。

 げっ。

 いつの間にか、こんなに時間が経っていたのか。
 急いでミャオのところに帰るつもりだったのに。

 このままじゃ、また『僕を一人ぼっちにして』と言われてしまう。
 私は大慌てでシルヴァに道を教えてもらうと、全速力で体育館を出た。

 汗だくで疾走する道中。
 私の頭に、ちょっとした疑問が浮かんだ。

 カズネは、なぜ狐のお面をつけていたのだろう?
 別に、正体を隠す必要はないと思うんだけど。

 いや、まあ、彼女にも、色々と事情があるに違いない。わざわざ説明しなかったということは、あまり語りたくないことなのかもしれないしね。それならば、これ以上詮索するのはよそう。

 今はとにかく、ミャオのことだ。

 私は地面を蹴り、先を急ぐのだった。
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