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第二部 獣人武闘祭
第258話
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朝の8時。
私は、宿の前に帰ってきた。
や、やってしまった……
朝帰りなんて、どれだけぶりだろう。
……昨日は、いろんな意味で素晴らしい夜だった。
気恥ずかしくもあるが、自然と顔がほころんでしまう。
おっとっと。
いつまでもこんな状態じゃダメね。
私はミャオのトレーナーなんだから。
ミャオは、ちゃんと体を休めているだろうか。時間があるからと、特訓などしていないだろうか。まあ、最近は前にもまして素直になっていることだし、きちんと私の言いつけを守っているだろう。
私は、施錠を解き、自室のドアを開けた。
開けた途端、ミャオが私の胸に飛び込んできた。
「せんせぇ! どこ行っとったニャ! 心配したニャ!」
「う、うん。おはよう、ミャオ」
「おはようじゃねーニャ! どこを探してもいないから、散歩に行ってドブにでもはまって動けなくなったのかと思ったニャ!」
「私、そこまでドジじゃないわよ……」
ミャオの大きな瞳には、うっすらと涙が浮いている。
これは、相当に心配をかけてしまったようだ。
罪悪感に、ずきりと胸が痛んだ。
「ごめんなさい、ミャオ、心配かけて。実は、出かけた先で、たまたま昔の知り合いに会ってね。その人の家に泊めてもらったのよ」
「そうなのニャ? 僕はてっきり、ドブにはまったか、エッチなお店めぐりでもしてるのかと思ってたニャ」
「だから、エッチなお店に行くほどお金持ってないってば……」
「それならいいニャ。許すニャ」
「はは~、ありがたき幸せ~。ところでミャオ、朝ご飯食べた?」
「まだニャ。先生のことが心配で、飯も喉を通らんかったニャ」
「それは失礼しました。今から一緒に食べに行こっか」
「行くニャ!」
そう言ってミャオは元気よく飛びあがった後、一瞬きょとんとする。
それから、私が「どうしたの?」と聞く前に、再び私の胸に顔を埋めた。
くんくん。
くんくん。
匂いを、嗅いでいる。
「ちょ、ちょっと、ミャオ、どうしたの?」
ミャオは顔を上げた。
その表情は、猜疑心の塊だった。
「……知らない女の匂いがするニャ」
「えっ!?」
「くんくん……年齢は、二十代前半……くんくんくん……アライグマ……いや、狸の獣人ニャね」
す、すごい。
私はミャオの凄まじい嗅覚に、戦慄を覚えた。
「くんくんくんくん……そしてこれは、発情した雌の汗の匂いニャ……」
「い、いやぁ、参ったわねこりゃ。ミャオ、探偵にでもなれるんじゃない?」
私は「たはは」と笑ったが、ミャオは笑っていなかった。
「僕を一人ぼっちにして、何やっとったニャ! やっぱりエッチなお店に行ってたニャ!」
「い、いや、違う、それは違うのよ、本当に違うの」
「何が違うニャ! 先生はエロ先生ニャ!」
これはもう、ごまかせそうにない。
エッチなお店に行ってたと思われるくらいなら、事実を正直に話そう。
「あの、その……さっき言ってた、知り合いっていうのが、女の人でね。その人と私は、昔、まあ、付き合ってたってわけでもないんだけど、まあ、その、色々あって、それで、久しぶりに会って、なんていうか、凄くいい感じになって、それで……えっと……ほら……あの……わかるでしょ?」
「にゃあああああああ! やめるニャ! そんな話聞きたくないニャ! 不潔ニャ!」
ミャオは私の胸から飛びのくと、どこからか塩を持ってきて、一握り分、私にぶつけてきた。
「いたっ……」
「今からこのお部屋は、エロい人は立ち入り禁止ニャ! とっとと出てくニャ!」
「ミャオ……」
「話しかけんなニャ! エロがうつるニャ!」
「はい……」
今は、何を言っても無駄だろう。
私は、すごすごと部屋を出た。
頭にかかった塩を、何気なく指ですくって舐めとる。
当たり前だが、しょっぱい味がした。
私は、宿の前に帰ってきた。
や、やってしまった……
朝帰りなんて、どれだけぶりだろう。
……昨日は、いろんな意味で素晴らしい夜だった。
気恥ずかしくもあるが、自然と顔がほころんでしまう。
おっとっと。
いつまでもこんな状態じゃダメね。
私はミャオのトレーナーなんだから。
ミャオは、ちゃんと体を休めているだろうか。時間があるからと、特訓などしていないだろうか。まあ、最近は前にもまして素直になっていることだし、きちんと私の言いつけを守っているだろう。
私は、施錠を解き、自室のドアを開けた。
開けた途端、ミャオが私の胸に飛び込んできた。
「せんせぇ! どこ行っとったニャ! 心配したニャ!」
「う、うん。おはよう、ミャオ」
「おはようじゃねーニャ! どこを探してもいないから、散歩に行ってドブにでもはまって動けなくなったのかと思ったニャ!」
「私、そこまでドジじゃないわよ……」
ミャオの大きな瞳には、うっすらと涙が浮いている。
これは、相当に心配をかけてしまったようだ。
罪悪感に、ずきりと胸が痛んだ。
「ごめんなさい、ミャオ、心配かけて。実は、出かけた先で、たまたま昔の知り合いに会ってね。その人の家に泊めてもらったのよ」
「そうなのニャ? 僕はてっきり、ドブにはまったか、エッチなお店めぐりでもしてるのかと思ってたニャ」
「だから、エッチなお店に行くほどお金持ってないってば……」
「それならいいニャ。許すニャ」
「はは~、ありがたき幸せ~。ところでミャオ、朝ご飯食べた?」
「まだニャ。先生のことが心配で、飯も喉を通らんかったニャ」
「それは失礼しました。今から一緒に食べに行こっか」
「行くニャ!」
そう言ってミャオは元気よく飛びあがった後、一瞬きょとんとする。
それから、私が「どうしたの?」と聞く前に、再び私の胸に顔を埋めた。
くんくん。
くんくん。
匂いを、嗅いでいる。
「ちょ、ちょっと、ミャオ、どうしたの?」
ミャオは顔を上げた。
その表情は、猜疑心の塊だった。
「……知らない女の匂いがするニャ」
「えっ!?」
「くんくん……年齢は、二十代前半……くんくんくん……アライグマ……いや、狸の獣人ニャね」
す、すごい。
私はミャオの凄まじい嗅覚に、戦慄を覚えた。
「くんくんくんくん……そしてこれは、発情した雌の汗の匂いニャ……」
「い、いやぁ、参ったわねこりゃ。ミャオ、探偵にでもなれるんじゃない?」
私は「たはは」と笑ったが、ミャオは笑っていなかった。
「僕を一人ぼっちにして、何やっとったニャ! やっぱりエッチなお店に行ってたニャ!」
「い、いや、違う、それは違うのよ、本当に違うの」
「何が違うニャ! 先生はエロ先生ニャ!」
これはもう、ごまかせそうにない。
エッチなお店に行ってたと思われるくらいなら、事実を正直に話そう。
「あの、その……さっき言ってた、知り合いっていうのが、女の人でね。その人と私は、昔、まあ、付き合ってたってわけでもないんだけど、まあ、その、色々あって、それで、久しぶりに会って、なんていうか、凄くいい感じになって、それで……えっと……ほら……あの……わかるでしょ?」
「にゃあああああああ! やめるニャ! そんな話聞きたくないニャ! 不潔ニャ!」
ミャオは私の胸から飛びのくと、どこからか塩を持ってきて、一握り分、私にぶつけてきた。
「いたっ……」
「今からこのお部屋は、エロい人は立ち入り禁止ニャ! とっとと出てくニャ!」
「ミャオ……」
「話しかけんなニャ! エロがうつるニャ!」
「はい……」
今は、何を言っても無駄だろう。
私は、すごすごと部屋を出た。
頭にかかった塩を、何気なく指ですくって舐めとる。
当たり前だが、しょっぱい味がした。
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