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第二部 獣人武闘祭
第249話
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アニーは「んげっ」と吐くような仕草をして、苦々しく舌を出した。
「うちの団体の社長がつけたの。お前の顔は迫力がないから、猛々しいゴリラの覆面をかぶって、普段からキャラ作れってさ。ま、実際それでメインイベンターになれたんだから、良かったんだけど」
「兄ちゃん、よそうや。男の喧嘩に、刃物を使うのはみっともないぜ」
私は、先程のアニーの雄々しい声色をものまねした。
「だから、やめてってば! 自分でも恥ずかしいんだから」
「でも、刃傷沙汰になりそうだったから、止めてあげたんでしょ? 相変わらず、優しいわねぇ」
「だって、ほっとけないよ。あのままだと、酷いことになってたかもしれないし」
「まあ、アニーに殴られて、二人とも充分『酷いこと』になってた気もするけど」
「それでも、刺されたり切られたりして死んじゃうよりはいいでしょ」
「おっしゃる通り」
そこでいったん、会話が途切れる。
アニーは残ったウィスキーを一息に飲み干し、私もソーダ水を飲み干した。
「怪我の具合、どう?」
尋ねたのは、私だ。
「ん。基本的には大丈夫。千切れた尻尾は元に戻らないけどね。あと、膝の古傷に負担がくるから、長期の歩き旅とかは、ちょっと厳しいかな。もう一回勇者パーティーに加わるのは、無理っぽいね」
「そっか……」
・
・
・
アニー・アリエスは、私と共に、勇者ラジアスの旅に加わった、古参メンバーの一人だ。大斧を軽々とつかう、狸の獣人であり、魔物たちから恐れを込めて、狂戦士(バーサーカー)アニーと呼ばれていた。
戦闘中以外は非常に温厚で優しい女性であり、同世代の女同士ということもあって、私にとって彼女は、パーティーの中でもっとも親しい存在だった。
……ラジアスたちは知らないが、私とアニーの関係は、友達以上、恋人未満というところであり、正式に付き合っているわけではなかったが、旅の最中、その、何度か、『凄くいい感じ』になったこともある。
そのアニーが、パーティーを離脱したのは、今から約一年前のことである。
私と勇者ラジアス、そして魔導師トレイボンが別件で離れている間に、突如奇襲を仕掛けてきた魔王軍から街の人々を守るため、アニーは限界を超えて戦い続け、深刻な傷を負ってしまったのだ(アニー自慢のモフモフ尻尾は、その時に千切れ飛んだ)。
幸い、命に別状はなかったが、私の治癒魔法を使っても、完全回復をさせることはできなかった。深い傷を癒やすには長い時間とリハビリが必要であると医師に判断され、アニーはパーティーを離脱し、私たちに何も告げず、故郷に戻っていった。
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「でも、刃傷沙汰になりそうだったから、止めてあげたんでしょ? 相変わらず、優しいわねぇ」
「だって、ほっとけないよ。あのままだと、酷いことになってたかもしれないし」
「まあ、アニーに殴られて、二人とも充分『酷いこと』になってた気もするけど」
「それでも、刺されたり切られたりして死んじゃうよりはいいでしょ」
「おっしゃる通り」
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「怪我の具合、どう?」
尋ねたのは、私だ。
「ん。基本的には大丈夫。千切れた尻尾は元に戻らないけどね。あと、膝の古傷に負担がくるから、長期の歩き旅とかは、ちょっと厳しいかな。もう一回勇者パーティーに加わるのは、無理っぽいね」
「そっか……」
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アニー・アリエスは、私と共に、勇者ラジアスの旅に加わった、古参メンバーの一人だ。大斧を軽々とつかう、狸の獣人であり、魔物たちから恐れを込めて、狂戦士(バーサーカー)アニーと呼ばれていた。
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