二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第二部 獣人武闘祭

第241話

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「先生……水浴びしたいニャ……このベトベト嫌ニャぁ……」

 ミャオが、やっとこさ正気を取り戻したらしい。
 粘液でべとべとのタンクトップを脱ぎ捨てようとしている。

「待った待った、ここで脱いじゃ駄目よ。どうせなら、このまま温泉に行きましょう。体も心も、ゆっくり休まるはずだわ」

 私はミャオを伴って、大浴場に向かった。

 どうやら混浴らしく、脱衣場も男女兼用だが、この時間は誰もいないようだ。これなら、ミャオと二人でゆっくり入浴することができるだろう。

 ミャオはポイポイと全ての服を脱ぎ、脱衣かごに入れようとする。

 私は、それを制止した。
 このままでは、脱衣かごがベトベトになってしまう。

 私はミャオから衣服を受け取ると、そのまま洗濯機に投入した。
 古びた温泉宿にしては、意外なくらい最新式の奴だ。
 これなら、粘液も綺麗に落としてくれることだろう。

「それじゃ、僕は先に入ってるニャ」

「あ、こら、ミャオ。走ると危ないわよ」

 私も服を脱ぎ、カラカラと乾いた音を立てる引き戸を開け、ミャオの待つ浴場に足を踏み入れる。

 そこは、見事な露天風呂だった。
 軽くかけ湯をして身を清めると、石造りの湯船に浸かる。

 もうすっかり夕方だ。この宿はかなり高台にあるので、真っ赤な夕日に照らされた、近代的なグランディアの街並みが一望できる。素晴らしい、絶景だった。

 ミャオも隣でその光景を眺めながら、心地よさそうに息を吐く。

「はぁ~……極楽ニャ~……」

「ええ、本当に。都会の真ん中で、こんな絶景の露天風呂に入れる宿なんて、ちょっとないわよね」

「いつも川で水浴びだから、お風呂に入ったのなんて何年振りかニャ。これは、思ったよりいいものニャ」

「あれ、猫ってだいたい、お風呂嫌いじゃなかったっけ?」

「この僕を猫呼ばわりするとは、とんだ無礼者ニャ。先生じゃなかったらぶっ飛ばしてるニャ」

「失礼しました。謝るから許して」

「ニャッ。分かればいいニャ。あっ、先生。せっかくだから、後で背中流してあげるニャ」

「うん、ありがとう」

 お互いに顔を見合わせ、微笑み合う私とミャオ。

 本当に、いいお湯だ。
 これで先程までの緊張と、特訓の疲れも消えていくことだろう。

 カラカラカラ。

 乾いた引き戸の音がした。
 おや、誰か入って来たのかな。

 こんにちは、いいお湯ですよと声をかけようとして、絶句した。
 浴場の入り口に、体にタオルを巻きつけた幽霊――ネルロが立っていたからだ。

「ふひっ……お風呂……ご一緒しても、よろしいですか……ふひひっ」

 ミャオの絶叫が、露天風呂全体にこだました。
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