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第二部 獣人武闘祭

第237話

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 何より凄いのは、その筋肉だ。あまりにも胸の筋肉が盛り上がり過ぎて、『J1グランプリ主催委員会』と書いてあるのであろうTシャツの文字が、伸ばされきって象形文字のようになっている。

 顔の半分以上を覆う、立派な髭を生やしたその巨漢は、先程ネルロが這いずって出ていったときにべっとりと床についた粘液を踏み、きょとんとした顔になった。

「おや……この粘液は……? ああ、ネルロの奴が来たようですな! いやぁ、すいません! ビックリしたでしょう!? あれ、ワシの娘ですわ! ガハハ!」

 に、似てない親子だわ。

 精神的に疲れてしまったところに、豪快な声が大音量で浴びせられると、まるで音の波でビンタされてるような気分になる。私はフラフラしながら、蚊の鳴くような声で言う。

「あ、あの……失礼ですが……もう少し小さな声で話してもらえませんか……?」

 そんな私の哀訴に、巨漢は苦笑した。
 苦笑すらも、豪快だった。

「ガハハハ! いやあ、すみませんな! 声が大きいのは生まれつきで! ボリュームを落としますんで、勘弁してください! ガハハハハハハ!」

 巨漢の声は、ボリューム100から、98くらいに落ちた。

 うん……あんまり変わってない……
 これはもう、どれだけ抗議しても無駄だろう。
 私は悟りを開いた聖者のように、力なく微笑んだ。

「えっと、何の話でしたかな!? あっ、そうそう! ネルロの話ですな! 言っておきますが、ワシは役員の立場を利用して、娘を贔屓したりはしていませんぞ!」

「は、はぁ……」

「というより、ほんの数日前まで、ワシはあれが予選に出たことすら知らんかったのです! ネルロの奴は、世間様で流行りの、いわゆる『引きこもり』というやつでしてな! 久しぶりに外に出てくれて、親としては嬉しい限りですわ! ガハハハ!」

「そ、そうですか……それは何よりです……」

 よ、よくしゃべる人だわ。

 迫力ある重低音の声からは、単なる音の波動を超えて、物理的な圧力すら感じる。心なしか、いまだに茫然としたままのミャオの体が、巨漢の大声でズレていっているように見える。

 私ももう、なんだか疲れちゃった……
 出場選手の名簿表を置いて、早く帰ってくれないかな……

 しかしそんな私の切実な思いとは裏腹に、巨漢は部屋の隅に積んであった座布団を勝手に持ってくると、テーブルをはさみ、私と対面するような形で、どっすんと座り込んだ。そして、テーブル上に名簿を広げる。
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