二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第二部 獣人武闘祭

第235話

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 私の怪訝な視線に気がつき、隣の部屋の人は、ニタリと唇を釣り上げた。

「ふひ……濡れてるのは……気にしないでください……生まれつきですから……」

「は、はぁ……そうですか」

「ふひ……ふひ……ふひひっひひひひっひいっひひひひっひひひひいい!」

 隣の部屋の人は、急に頭を前後に振りながら、奇妙な笑い声をあげる。

 あまりの不気味さに、全身に鳥肌が立つのを感じた。
 ミャオは尻尾を股の間に挟むほどビビリきっている。

 な、なんなの、この人。
 挨拶に来ただけなら、早いところ自室に帰ってもらえないだろうか。

「あ、あの……まだ何か、御用でしょうか?」

 隣の部屋の人は、私の問いには答えず、急激にしゃがみ込むと、下から舐めるようにミャオの顔を覗き込んだ。垂れ下がった前髪の間で、充血したように真っ赤な瞳が輝いている。

 ミャオは再び、絶叫した。

「にゃばばばばばばば……!」

「ふひ……あなたがミャオさんですね……私、あなたの対戦相手の……ネルロです……ふひっ」

 対戦相手と聞いても、しばらく何の対戦相手なのかわからなかった。

 数秒遅れて、気がついた。
 この宿は、J1グランプリ関係者で貸し切りのはずだ。

 ということは、彼女は……

 そのことに、ミャオも気がついたようだ。
 おずおずと、尋ねる。

「も、もしかして、きみが僕の一回戦の相手なのニャ……?」

「だからそう言ってるじゃないのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

「ふぎゃああぁぁっ!?」

「ふひ……ごめんなさい……ちょっと興奮しちゃった……ふひひっ」

 ミャオはもう半泣きだ。
 私だって泣きたい。
 なんなのこの子。ただただ、純粋に怖い。

 隣の部屋の人――ネルロは、困惑しっぱなしのミャオに、ぬらりと手を差し出した。当然のように、その手はねっとりとした粘液で覆われている。

「互いの……健闘を祈って……握手……ふひっ」

「ニャッ!?」

 ミャオは、露骨に嫌そうだった。

 そ、そりゃそうでしょうね。ネルロの手からは、ポタ、ポタと、明らかにただの水とは違う、ゼリーに近い液体が垂れ落ちているんだもの。
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