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第二部 獣人武闘祭

第228話(ミャオ視点)

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「完敗ですわ。ミャオさん、予選優勝おめでとう」

 まっちゃんは、すぐに意識を取り戻し、僕に手を差し出してきた。

 僕はその手をギュッと握る。柔らかくて、温かい手だった。こんな優しげな手から、あれほどすさまじいパンチを繰り出せるなんて、信じられなかった。

「でも、なんか、勝った気しないニャ。結局、僕の打撃は一発も当たらなかったニャ……」

 自分で言って、初めてしみじみと気がついた。

 そうなのである。

 一発も。ただの一発も当たらなかった。防御はともかく、攻撃においてはかなりの自信があった僕にとって、これはショッキングな結果である。

 何より、互いのダメージの差は歴然だ。

 僕は体中あちこち、打撲、裂傷だらけ。
 自慢のパッチリお目目も、まぶたが腫れて、半分以上ふさがっている。

 対するまっちゃんは、まったくの無傷である。
 本当に、擦り傷一つすらない。

 それはそうだろう。
 不意打ち同然の三角絞めで、少し意識を失っただけなのだから。

 僕はなんだか、情けない気持ちになった。

「もう、そんな顔するんじゃありませんの。正直言って、あなたに馬乗りになられた時は、わたくしもかなり焦ったんですのよ? ……いえ、焦ったと言うより、恐怖を感じたと言う方が適切ですわね」

「恐怖? あんなに強いまっちゃんが、僕の何を怖がるニャ?」

「あら、恐怖を感じるのは、当然でしょう? 馬乗りになられ、逃げることのできない状態で、『タエ・シノブくん』を破壊するほどのあなたの攻撃を食らえば、最悪、死ぬこともありえますのよ? あれで何も感じなかったら、感情のない戦闘マシーンですわ」

「試合中のまっちゃんの完璧な動きは、戦闘マシーンそのものだったニャ」

「まあひどい。わたくし、これでも感情豊かで、熱くなりやすい方でしてよ。ですから、少々我を忘れて、必要以上に連打を加えてしまいました。体が起きた時点で立ち上がれば、寝技を食らうことはなかったのに」

「ニャッ……」

「そういう状況までわたくしを追い込んだ、あなたの執念の勝利ですわ。胸を張ってくださいまし」

「でも、なんだか申し訳なくて、優勝を辞退したい気分ニャ……」

 僕の言葉を聞いたまっちゃんは、何かに驚いたような顔を浮かべた。
 それから、声をかみ殺すようにして、笑いだす。

「な、なんニャ? 僕、何か変なこと言ったニャ?」

「いえ、あなたが昔のわたくしと同じようなことを言うのが、おかしくて。……ミャオさん、そういうことは二度と言ってはいけませんわ。その発言は、真剣勝負をした相手を侮辱することになります。今なら、わたくしにもわかりますわ」

 僕は慌てて両手を振る。

「そ、そんなつもりで言ったんじゃないニャ」

「……よく分かっていますわ、自分のことのように。でも、真意と違う言葉でも、人は充分に傷つくのです。優勝辞退なんて言われては、あなたに負けて悔しがっているわたくしが、馬鹿みたいじゃないの」

「く、悔しいも何も、実力はまっちゃんの方がずっと上ニャ。今すぐもういっぺん戦ったら、絶対まっちゃんが勝つニャ」
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