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第二部 獣人武闘祭

第200話

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「あーあ、また100ポイント以下。まだ一人も合格者でないね」

 タマラが、退屈そのものといった表情で呟く。

 無理もない。

 これまで登場した127人の中で、最高記録は568ポイント。後はほとんどが100ポイント以下であり、ただの一人も合格者が現れていないのだ。攻撃力1000ポイントというのは、なかなかに高いハードルらしい。

「こんな様子じゃ、ここの予選はトーナメントどころか、試合なしでマリエールの優勝に決まっちゃうかもね。つまんないの」

「いや、それはないわね。少なくとも、一試合は確実に組まれると思うわ」

 私は自信を持って言った。

 タマラは、マリエールの強さは知っているようだが、ミャオの強さを知らないのだ。防御にはまだ少々不安があるが、攻撃力は天下一品である。この程度の試験、苦も無く突破するだろう。

「マリエールと、ディーナの弟子の試合ってこと? ……信じてるんだ、あの子のこと」

「まあね。私は、あの子がどれだけ努力してきたかを、身をもって知ってるから」

「ふぅん」

 それから、しばらく私たちは黙って予選の予選を見続けた。

 一人。
 二人。
 そして三人目の選手の挑戦が終わる。

 数値は、どれも100ポイント以下だった。

「なんか、いいね。そういうの」

 不意に、タマラが口を開く。

「そういうのって?」

「だから、そういうのだよ。師弟の信頼関係ってやつ?」

「信頼関係、か。でも実際のところ、ミャオは私のことをどう思っているのやら」

 基本的に言うことは素直に聞くが、奔放で口が悪いところがあるミャオが、心の底から、私のことを師と仰いでいるのかは、どうにも怪しいところがある。

 そんな私に、タマラは呆れたような笑みを浮かべた。

「な、何? 私、変なこと言った?」

「んーん、別に。ただ、弟子の気持ち、全然わかってないなーって思って」

「ええっ? そうかな?」

「そうだよ。さっきもあの子、ディーナの方を見て、嬉しそうに、手、振ってたじゃん。尊敬してなかったり、嫌いな師匠に、あんな顔しないよ」

「そういうもんかな」

「そういうもんなの」

 それから、再び私たちは黙り込んだ。

 今度の挑戦者は、締め技で『タエ・シノブくん』の首をギリギリと締め上げる。

 780ポイント。

 これまでの最高点だ。

「おっ、けっこう凄い点数がでたわ。ねえ、タマちゃん。……タマちゃん?」

 私は、隣のタマラに話しかけたが、彼女は競技場ではない、どこか遠くを見つめていた。

「あたしにも、ディーナとあの子みたいに、信頼しあえるコーチがいたら良かったのに……」

 タマラの青い瞳は、とても寂しそうだった。

 その時、競技場から激しい炸裂音が聞こえた。視線をそちらにやると、残身を取り、深く息を吐くマリエールの前で、『タエ・シノブくん』が横たわっていた。
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