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第二部 獣人武闘祭

第184話

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 だが、さすがと言うべきか、不可解な理由で技が決まらなくても、カズネは焦ることなく、するりと体勢を変え、今度は私の足首を極めようとした。

 うーん。
 度胸があるわねえ。

 普通、よくわからない理由で技が失敗したら、一度距離を取って、仕切り直しをしたくなるものだけど、自分が攻めている流れのまま、一気に勝負を決めるつもりなのね。

 しかし、カズネの技は、またしても極まらない。
 私が、乱暴なまでの強引さで、足を引き抜いたからだ。

 カズネの顔に、明らかな狼狽の色が浮かぶ。

『今度の技は、先程よりも完璧な流れだった』
『絶対に、逃げられるはずがない』
『なのに、簡単に逃げられた』
『どうしてなの?』
『わからない』

 きっと、そんな考えが、ぐるぐると頭の中を巡っているに違いない。

 ごめんなさいね。

 でも、この世の中にはね。
『技の冴え』だけじゃ、どうしようもない相手もいるのよ。

 あなたはまだまだ強くなれるけど、今はまだ、私の敵じゃないわ。

 そろそろ、おしまいにしましょうか。

 私は足を引き抜いた勢いをそのまま攻撃に転じ、彼女の腹部を蹴りあげた。

 無理な体勢から放った蹴りだが、それでも効果は充分だった。
 小さな呻きを上げて、カズネは仰向けに倒れる。

 その隙を、私は見逃さなかった。
 私は、彼女に馬乗りになる。

 マウントポジション。
 カズネはブリッジをして私を跳ねのけようとするが、無駄だった。

 私はカズネの顔面に拳を振り落とす。
 硬く握りしめた、全力の拳。

 腹を蹴られ、動きの鈍いカズネには、かわすすべはない。道場の硬い床とパンチでサンドイッチになれば、カズネの頭蓋骨はたやすく砕けるだろう。

 鼻先まで1ミリメートル。
 そこで、拳を止めた。

「勝負ありだと思うけど、どうかしら?」

「ま、参りました……完璧に、私の負けです……」

 カズネは、素直に敗北を受け入れてくれた。……良かった。『どちらかが死ぬまで決着はつかない!』とか言いだすようなタイプじゃなくて。

 彼女が『試合』ではなく『死合』を望んでいたのであれば、こちらもそれに応え、とどめを刺すまでやらなければならなかった。それが、武人としての礼儀だからだ。

 しかし私は、できることなら、ゾーダンクの娘であるカズネを殺したくはなかった。いや、カズネに限らず、基本的に誰であっても、軽々しく命を奪うことは嫌いなんだけど。

 まあ、とにもかくにも、誰の命も消えることなく戦いが終わり、一件落着である。

 私たちは立ち上がり、試合開始時と同じように、互いに礼をした。
 カズネが、おずおずと尋ねてくる。

「あの、ディーナ様。私の技、どこがまずかったでしょうか……?」

「まずかったって? どういう意味?」
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