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第二部 獣人武闘祭

第183話

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 父の復讐……か。
 私は、不意に、エリスの笑顔を思い出した。

 ……おっと、いけない。
 感傷に浸ってる場合じゃなかったわね。

 さあ、これ以上、言葉を交わすのは無粋だろう。
 カズネの父、ゾーダンクを倒した私には、彼女の挑戦を受ける義務がある。

 私は折り目を正すと、かつての強敵の娘に、最大限の敬意を払い、言う。

「承知しました。その勝負、謹んでお受けいたします」

 そして、ちらりとミャオの方に視線をやる。

「うにゃ……うにゃにゃ……にゃるらとほてぷ……zzZ」

 ミャオは倒れたままだが、もぞもぞと身をよじっていた。
 どうやら、うっすらとだが、意識を取り戻しつつあるようだ。

 さすがの回復力ね。
 寝言の意味はよく分からないけど。

 とりあえずホッとした私は、ミャオを抱えて、道場の隅に寝かせた。
 私とカズネの決闘に、巻き込まれないようにするためだ。

 それから、道場の中心でカズネと向き合った。

 互いに、礼をする。
 試合が、始まった。

 先手を打ったのは、カズネだった。
 風のような速さで私の懐に飛び込んでくる。

 やるわね。
 流麗で、滑らかな動き。
 打撃で迎撃する暇が無かった。

 カズネは胴にタックルをかまし、そのまま私の体を倒そうとする。

 なるほど。
 グラウンドでの勝負をご所望ってわけね。

 望むところよ。
 私は抵抗せず、流れのままに倒された。

 カズネが上、私が下だ。

 私はカズネの腰に足を組みつかせた。
 マウントポジションを取られないようにするためだ。

 そうくることは承知していたようで、カズネはすり抜けるように私の足から逃れると、私の側面につこうとした。その動きに対応しようとした刹那、初めて彼女に腕を取られた。

 うまい。
 これを狙ってたのね。

 私の頭に、苦い思い出がよみがえる。

 それは過去に、ゾーダンクに腕を折られたのとまったく同じ動きだったからだ。驚くべきことに、カズネはこの若さで、ゾーダンクにも引けを取らないほどの技を身に着けていた。

 しかし、極まらない。
 私の腕は、カズネの腕から強引に逃れる。

 カズネは一瞬だが、不可解そうに首をひねった。ほぼ確実に決まったはずの技が、こうも簡単にはずされたのが、不思議で仕方ないのだろう。

 ……ふふ。技の冴えだけならゾーダンクに匹敵するけど、やっぱりまだまだ若いわね。まあ、この子は『今の私の姿』しか知らないわけだから、技が決まらない理由がわからなくても、しょうがないかしら。
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