二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第二部 獣人武闘祭

第162話

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 少女は、こちらに向かってポイッと袋を投げた。

 分かってくれたのね。

 そう思って袋をキャッチした瞬間。
 胸とおへその間――みぞおちで、何かが爆発したような衝撃。

 少女の蹴りが、私の腹に深々と突き刺さっていた。
 つま先まで、腹筋の中にめり込んでいる。

 素晴らしく鋭い、業物のナイフのような蹴りだった。
 あまりのスピードに、聖女の結界を展開する暇もなかった。

 しまった。
 安心させて不意打ちするなんて、よくある手なのに。

 私は、思わず片膝をついてしまう。
 これほどの打撃を受けたのは、いつ以来だろう。
 驚きと共に、新鮮な感動が、胸の中に浮かび上がった。

 少女はニヤリと笑い、私の手から袋をひったくると、ドアの隙間をすり抜けるようにして逃げ出そうとした。私はその背中を、背後からガッチリと抱きしめる。振り返った少女の顔は、驚愕に歪んでいた。

「ニャニャッ!? なんで倒れないニャ!? 僕の蹴りが完璧に入ったのに!?」

 初めて聞いた彼女の声は、外見よりもさらに幼かった。
 一瞬力が緩みそうになるが、このまま逃げすわけにはいかない。

 単純に、お金を奪われたくないのはもちろんだが、素晴らしい一発を食らった分、こちらも、一発おかえししなければ、『聖女ディーナ』の名がすたるわ。

「少し『おいた』が過ぎたわね、お嬢さん」

「ふぎゃーっ! 放すニャッ!」

「お仕置きよ」

 厳しくそう言うと、少女の体を抱えたまま、私は思い切りのけぞった。

 床から、彼女の体がふわりと浮く。

 少女はさぞ驚いていることだろう。
 突然視界に宿の天井が映っているだろうから。

 そして、衝撃。

「ぎにゃっ……!」

 大きく呻きを上げた後、少女は動かなくなった。

 ジャーマン・スープレックス。
 一応手加減したし、獣人の肉体は頑丈だから、死にはしないだろう。

 私はお金の詰まった袋を取り返すと、少女の容態を見る。
 どうやら気を失っているだけのようであり、ひとまず、ホッとする

 さて、この子をどうしたものか。

 どうもこうもない。これほど腕の立つ狂暴な空き巣を野放しにしておくのは、社会的によろしいことではない。即刻警察に突き出すべきだ。

 理屈では、それは分かっている。しかし、心の中の何かが、『もう少し待って。彼女の話を聞いてからでも遅くはないんじゃない?』と訴えてくる。
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