二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ？

第１４０話

　私はちらりとエリスを見てから、ヒヒロミカに対し、少し慌てたように言う。

「あのっ……！」

「わかっておる、安心せい。過去を読み取ったからと言って、ワシはその内容をペラペラと語ったりはせぬ。ふふ、こう見えて、デリカシーのある方なんでな」

　その言葉で、とりあえずホッとした。

　私だって人間だ。人並みに『知られたくない過去』というものが存在する。特に、エリスのように、私を尊敬し、慕ってくれている子には、あまり昔のことを知られたくない。

　そんな私の気持ちが、エリスにも伝わったのか、エリスは一瞬だけ私の方を見たが、私の過去についてあれこれと尋ねてくるようなことはなく、すぐにヒヒロミカの方に視線を戻し、話題を変えた。

「お初にお目にかかります、ヒヒロミカ様。私は、エリス・ルセインという者です。今回、『エルフ式魔術ボクシング競技大会』で優勝し、ヒヒロミカ様のお言葉を賜る権利を得て、こうして……」

　エリスは恭しく頭を下げ、いつも以上に丁寧に言葉を並べていく。
　そのエリスの言葉を、ヒヒロミカは小さな手を上げて遮った。

「ああ、よいよい。みなまで言うな。ワシを誰だと思うておる。お前の顔を見た時点で、お前のことも、お前の知りたいことも、全部わかっておる。先程『何が知りたい』とわざわざ尋ねたのは、単に話のとっかかりを作りたかっただけじゃ」

「で、では……！」

「うむ。お前の義父ノッドルの仇――その名も、現在の居場所も、そしてノッドルと戦うことになった理由も、ワシの目には、すべて見えておる」

　なんと……
　これは、正真正銘の千里眼だ。

　しかし、これほど何もかもが分かりすぎてしまうと、普通の神経をしていては、とても正気ではいられない気がする。少なくとも私なら、知りたいことも、知りたくないことも、過去も未来も、すべてが見えてしまい、その情報の洪水が一斉に頭に流れ込んできたりしたら、気が狂ってしまいそうだ。

　そう思った私の頭の中が、再びヒヒロミカに筒抜けになったのか、ヒヒロミカは、幼げな少女の顔には不釣り合いなニヒルな笑みを浮かべ、私に向けて言う。

「ふふふ、ワシの神経は、とっくの昔に普通ではないのでな。自分で言うのもなんだが、精神的には、もはや神仏や精霊に近い。……ディーナよ。お前、さっきワシに自分の過去を読み取られたとき、それを言いふらされることに関しては焦ったが、ワシがお前の過去を知ってしまったこと自体に対しては、特に慌てなかっただろう？　何故だと思う？」