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第133話
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「彼は、殺し合いの技術であった『エルフ式魔術ボクシング』の本質を忘れ、厳しい鍛錬を忌避する選手と指導者たちに失望し、『エルフ式魔術ボクシング協会』を去りました。去り際に『これで、エルフ式魔術ボクシングも終わりだ。せいぜいなれあって、ままごとのようなボクシングごっこを楽しんでいろ、軟弱者どもめ』と言い放って……」
「そ、それはまた、厳しい言葉ですね」
私が出会った、ニコニコ笑顔のユーゲンスからは、想像もできない苛烈な言葉だ。ストッフェンは、語り続けるうちに、当時の情景を明確に思いだしてきたのか、いつの間にか瞳を閉じ、過去を覗き込むようにして言う。
「ユーゲンスは、誰よりも『エルフ式魔術ボクシング』に打ち込み、チャンピオンにまでなった男ですから、自分の考えが理解されなくて、相当に悔しかったのでしょう……私は当時、彼のことを『時流の読めない哀れな武人』だと思いました……」
「…………」
「『もう他種族と争うこともないし、たとえ、再び争いが起こったとしても、魔法科学の発展により、今ではすぐれた武器が山のようにある。それなのに、若者たちに血みどろの修行を強要してまで、必殺の拳を継承していくことに何の意味がある』とも思いました。しかし……」
「しかし?」
「私たち『一般普及派』が『エルフ式魔術ボクシング』を安全なものにし、一般に広く普及させたことで、本来の『エルフ式魔術ボクシング』が持つ必殺の拳は失われてしまった。あの時ユーゲンスが言った通り、今の『エルフ式魔術ボクシング』は、ボクシングごっこです」
「…………」
「先程私は、リング上の選手たちを『スポーツマン』と揶揄しましたが、『エルフ式魔術ボクシング』をスポーツにしてしまったのは、私たち自身だったのです。……私たちの作った練習体系でトレーニングを重ねた若者たちが、本日、ユーゲンスの孫であるエリスに一分とかからず倒されたことで、それがハッキリと分かりました」
そこで、表彰式の準備が終わり、大会関係者が、『エルフ式魔術ボクシング協会』会長であるストッフェンを呼びに来た。ストッフェンは「今行く」と頷き、立ち上がると、私に向かって、最後にこう言った。
「ですが、やはり私は、一部の天才のみが習得できる必殺の拳術より、多くの一般人に武の心得を伝え、体を動かす楽しみを教える今の『エルフ式魔術ボクシング』の方が、平和な時代には適していると思います」
「そ、それはまた、厳しい言葉ですね」
私が出会った、ニコニコ笑顔のユーゲンスからは、想像もできない苛烈な言葉だ。ストッフェンは、語り続けるうちに、当時の情景を明確に思いだしてきたのか、いつの間にか瞳を閉じ、過去を覗き込むようにして言う。
「ユーゲンスは、誰よりも『エルフ式魔術ボクシング』に打ち込み、チャンピオンにまでなった男ですから、自分の考えが理解されなくて、相当に悔しかったのでしょう……私は当時、彼のことを『時流の読めない哀れな武人』だと思いました……」
「…………」
「『もう他種族と争うこともないし、たとえ、再び争いが起こったとしても、魔法科学の発展により、今ではすぐれた武器が山のようにある。それなのに、若者たちに血みどろの修行を強要してまで、必殺の拳を継承していくことに何の意味がある』とも思いました。しかし……」
「しかし?」
「私たち『一般普及派』が『エルフ式魔術ボクシング』を安全なものにし、一般に広く普及させたことで、本来の『エルフ式魔術ボクシング』が持つ必殺の拳は失われてしまった。あの時ユーゲンスが言った通り、今の『エルフ式魔術ボクシング』は、ボクシングごっこです」
「…………」
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