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第128話

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 まあ、参加者の中で唯一の女性であるエリスを、他の選手たちは舐めきっていて、注意を払っていなかったのかもしれないが。

 だが皆、今の動きで、エリスがただ者ではないと気づいたのだろう。
 残った4人のうち、3人が頷き合い、一斉にエリスに向かってきた。

 どうやら、今の短いアイコンタクトで、彼らの間に休戦協定と共闘同盟が結ばれたようだ。まずは皆で力を合わせ、もっとも手ごわい相手をやっつけてしまおうという作戦らしい。

 私は、純粋に感心した。
 非情に素早く、適切な判断だったからだ。

 先程ストッフェンは、彼らのことを『スポーツマン』と皮肉ったが、少なくとも、スポーツの戦略的には間違いなく賢い作戦を、彼らは選択した。きっと、根が優秀な人たちなのだろう。構えや動きも、なかなかのものだし、皆、田舎の武術大会なら、上位に入賞できる程度の力はあるように思える。

 しかし、その程度の能力で、野生の獣以上の身のこなしのエリスに、かなうはずがなかった。左のショートアッパー、右のフック、そして、左のストレートで、3人はあっけなくリングに倒れ伏す。

 これで、試合開始からほんの10秒ちょっとの間に、5人の選手が脱落したことになる。まさに、疾風怒濤のごとき拳。これだけの動きは、そうそう見ることができるものではないので、もっと観客が沸いてもいいように思うが、観客たちは最初の声援の後は、声を出すのを忘れてしまったかのように、しぃんと静まり返ったままだ。

 ……ああ、そうか。
 観客たちには、エリスの動きが速すぎて見えていないのだ。

 彼らの動体視力では、何が何だかわからないうちに、5人倒れてしまったことしか理解できず、まるで幻覚でも見ているような気分なのだろう。

 そう思うと、せっかく熱戦を期待してやって来たのに、わけもわからぬまま、選手が倒れていく様を見ているしかないなんて、ちょっとかわいそうである。

 リング上に立っているのは、もはやエリスともう一人の選手だけだ。
 決着は、あと数秒でつくだろう。やはり、楽勝だったわね。

 そんなことを思っていると、最後に残った選手が、いきなりエリスにタックルを仕掛けた。……言うまでもないが、ボクシングにタックルという技術はない。タックルのように組み付き、相手の攻撃を防ぐクリンチという技術はあるが、それはタックルとは、根本的に目的が違う技である。
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