二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第122話

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 そう言って、快活に笑うストッフェンに、他種族を侮蔑する様子はまったくない。ついさっき、感じの悪い男がエリスに対して散々不愉快なことを言っていたので、エルフ族の差別的思想にややうんざりしていた私だったが、どうやら、この人となら、安心して話すことができそうだ。

 私はとりあえす、ぺこりと頭を下げ、先程、感じの悪い男を叱責してくれたことを、感謝することにした。

「あの、さっきはありがとうございました。ストッフェンさんがあの男を一喝してくれなかったら、もっと大きなトラブルになっていたかもしれません。『エルフ式魔術ボクシング協会』の会長であるあなたがああ言っているのをみんな聞いていたから、もう誰もエリスの参加に文句をつける人はいないでしょうし、とても助かりました」

「いえいえ、私はただ、自分の感情をさらけ出し、無礼者に言いたいことを言っただけですよ。……しかし、嘆かわしいことです。近年、衰退の一途をたどる『エルフ式魔術ボクシング』を、なんとか盛り立てようと思い大会を開いたのに、集まって来たのが、あんな差別的で恥知らずの若者だとは、いや、本当に、嘆かわしい……」

 ストッフェンは、そこで一度、重たいため息を漏らし、言葉を続ける。

「確かに、我々エルフは、差別的思想が強い種族です。いえ、エルフに限らず、あらゆる地域、あらゆる種族において、差別的な感情というものは、必ず存在します。容姿、生まれ、性別、能力、職業、経歴……人は様々な要素で、人と人を区別している」

「…………」

「それは、ある意味では必要なことです。たとえば、生まれてから一度も他者を害さず、真面目に社会貢献している者と、何度も犯罪を繰り返し、反省するそぶりすらない者は、明確に区別すべきです。『人類皆平等』という言葉は美しいですが、『他者を愛し尊重する者』と、『他者を憎み傷つけてばかりいる者』が平等なんて、おかしいでしょう?」

 ストッフェンの語り口は、理路整然として、滑らかだった。里の名士である彼は、何かにつけてスピーチをする機会が多いだろうから、人に道理を語って聞かせることに、慣れているに違いない。

「しかし、その『区別』を『差別的行為』の根拠にして、公然と相手を侮蔑することは、非常に浅ましい行為です。少なくとも、知性と教養がある者がおこなうことではない。結局は、自らの品位を貶めるだけですからね」

 ストッフェンはそう言って、話をまとめた。
 一度もつっかえることのない、立て板に水を流すような弁舌であった。
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