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第118話

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 大会の会場である『エルフの里総合体育館』は、プールやアスレチック、さらには最新式のトレーニングマシンまで完備した複合運動施設であり、その敷地内の一角に、『エルフ式魔術ボクシング』専用のリングが設置されていて、どうやらそこで試合をやるようだ。

 ざっと見たところ、出場選手は7人ほど……エリスを入れても、全部でたったの8人だ。地方の武術大会でも、普通、数十人は参加者が集まるものだ。中規模都市レベルの広さがあるエルフの里全体に『こぞってご参加ください』と呼びかけた割には、悲しいほどに少ない。

 観客も、少ない。
 整然と設置された観客席の、実に半分以上が空席である。

 大会関係者と思しき人たちが、お互いの顔を見合わせて、次のようなことを言いあっているのが聞こえた。

「いやあ、入場無料なのに、席が半分も埋まらないなんて、ショックだねえ。しかも、客の大半は、中年か年寄りじゃないか。若者はどうした、若者は。皆、家でゲームでもしとるのか」

「たぶん、そうなんでしょうね。最近は、若者の『エルフ式魔術ボクシング』離れが加速してますから、若い人たちは、血なまぐさい殴り合いなんか、見たくもないのでしょう」

「軟弱だねぇ。うちらの若い頃は、毎日、必死になってサンドバッグを叩き、強者との戦いに明け暮れ、技を磨いたものだけどねぇ」

「時代ですよ、時代。私の息子なんて、ジャブとストレートの違いもわからないんですから。いやまったく、嘆かわしい限りです」

「そうだねぇ。しかしまあ、選手は8人集まったし、なんとか大会を開催できるだけでも、ありがたいと思わなきゃ駄目かねぇ」

 ……今の話を聞く限り、若いエルフたちは、あまり『エルフ式魔術ボクシング』に関心がないらしい。関係者にとってはつらいところだろうが、私たちにとってはむしろ幸運だ。選手が少なければ少ないほど、エリスが優勝できる確率は上がるからだ。

 私は、試合開始に備え、隣でストレッチをしているエリスに声をかける。

「なんか、思ってたより規模の小さい大会になっちゃったわね。この様子なら、楽勝って感じじゃない?」

 私のお気楽な態度を見ても、エリスは表情を緩めることはなかった。試合用の、エルフの民族衣装的なコスチュームに着替えたその姿には、独特の緊張感が漂っている。
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