二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第105話

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 そして夕方。
 私は一人、エリスの家のリビングにてくつろいでいる。

 エリスは、『ひさしぶりに近くの森で狩りをしてきます。お夕飯は私に任せてください』と言って家を出ていき、まだ戻っていない。

 ……初めてお邪魔した家にて、一人っきりで留守番をするというのもちょっぴり変な感じだが、このログハウスは非常に居心地が良いので、とても安らいだ気分である。木の匂いや温かみというものは、自然と人の心をリラックスさせる効果があるようだ。

 その時、コンコンと窓がノックされた。
 なんだろうと思い、窓の方を見て、私は小さく悲鳴をあげそうになる。

 エリスの兄――超巨漢のマッギロウが、その体と同様に巨大な顔を窓に近づけ、こちらを見ていたからだ。……危なかった。いくら驚いたからといって、人の顔を見て悲鳴を漏らすのは失礼すぎる。私は心を静めると、フレンドリーな微笑を作り、窓を開けた。

 マッギロウは、いかつい顔に似合わぬ柔和な笑みを浮かべたまま、黙っている。
 なんて声をかけていいのか分からず、私も笑顔のまま、沈黙を保つ。

 5秒経過……

 10秒経過……

 15秒経過……

 状況に変化なし……

 ……き、気まずい。

 やっぱり、こっちから『何か御用ですか?』と尋ねるべきかしら。んん~、でも、人の家でくつろいでる私が、家の住人に対して『なんか用?』って聞くのは、若干失礼な気がする。いや、失礼だのなんだのと言うなら、このまま黙っている方がよっぽど失礼なような気が……

 そんなことを思案していると、マッギロウはこちらに対し、ぬぅっと手を差し出してきた。まるで、小山のように、分厚く、巨大な手だった。

 私は一瞬、握手を求められているのかと思ったが、違った。マッギロウは、子供の腕ほどもありそうな人差し指と親指で、一輪の花をつまみ、それを、私に手渡そうとしていたのだ。

 ……どうやらこれは、私に対するプレゼントらしい。私は花を受け取り、「あ、ありがとうございます」と言った。すると、マッギロウは大きな頭を下げて頷き、ずしんずしんと足音を立て、どこかに行ってしまった。

 そして私は、今手渡されたばかりの花をじっと見る。

「綺麗な花ね……」

 思わず、そんな言葉が口から出た。
 本当に、綺麗な花だったからだ。
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