二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ？

第１０４話

　いつの間にかエリスは、肩を震わせ、涙を流していた。最近のエリスは、精神的にかなり落ち着いていたので、これほど感情をあらわにするのは、めずらしいことだった。

　私はそんなエリスの肩をそっと抱き、静かに言う。

「わかったわ、エリス。もう何も言わなくてもいい。あなたが納得するまで、とことんお義父さんの仇を捜し続けなさい……」

　エリスの抱えている思いは、私が考えていたより、ずっと強く、重かった。……とてもではないが、『復讐の旅はやめて、もっと別の生き方を探してみたら』なんて諭せるレベルの話ではない。恐らくエリスは、父の仇を討たない限り、自分の人生を前に進めることはできないだろう。

　誰にでも、そういうものはある。

『これに決着をつけない限り、他のことなんて考えられらない』

　どんな人の人生にも、そういうものがある。

　人間関係、仕事、あるいは趣味でさえも、そういうことがある。

　そして、どんなに人生を費やして追い求めても、決着がつかないこともある。決着がついたとしても、思っていたような答えが得られず、さらに悩むこともある。

　でも、一度胸に抱いた『強い思い』というものは、どこか、自分自身が納得するところまで、突き詰めていくしかないのだ。他人から見たら、『何故そんなことに執着する？』というようなことでも、進み続けるしかない。

　これはもう、理屈じゃない。たとえ、見て見ぬふりをしたとしても、心は思いに囚われ続ける。見て見ぬふりをする程度で忘れられるような弱い思いなら、最初から執着したりなどしないからだ。

　私は、力強くエリスを抱き寄せ、もう一度、先程と同じことを言う。
　それは、エリスに重ねて送る、心からのエールだった。

「あなたが納得するまで、とことんお義父さんの仇を捜し続けなさい」

　エリスは黙って、頷いた。
　私も頷き、言葉を続ける。

「正直に言えば、手掛かりがなさすぎるから、仇が見つかる可能性は低いわ。それでも、進み続けることで、きっといつか、自分の心を納得させられる日が来ると思う。私も協力するから、その日まで、頑張りましょう」

「はい……！」

　エリスの目には、もうほんの少しの迷いもなかった。