103 / 389
第103話
しおりを挟む
そして、エリスもきっと、そのことに気がつき始めているのだと思う。出会った頃の狂暴一色のエリスなら、復讐の旅を続けることに一切の迷いなどなかっただろうが、今の彼女は、昔とは違う。ゴブリン退治の時も思ったが、ある意味では、私よりも遥かに思慮深いと感じることがあるくらいだ。
エリスが現在、沈痛な面持ちで黙っているのは、単にユーゲンスに叱られたから……というだけではなく、自分の行動の意義について考えているからなのかもしれない。
……おせっかいになってしまう気もするが、私もエリスのことを諭してみようかな。『復讐の旅はやめて、もっと別の生き方を探してみたら』って。
そう思い、口を開きかけた瞬間。
エリスが私に向き直り、真剣な瞳で言う。
「お師匠様。私なりに、お義父さんの仇を捜し続ける意義について考えてみました。……お爺ちゃんの言う通り、お義父さんは、復讐など望んでいないのかもしれません。正々堂々の果し合いの結果、敗れたのに、娘の私が仇を討とうとしていることを、恥ずべきことだと思っているかもしれません」
そこで一度言葉を切り、エリスは沈黙した。
それから、万感の思いを込めるように、再び唇を開く。
「でも私は、やはり、義父の仇を許すことができません。以前にも少し申し上げましたが、義父の遺体は、無残な姿で、野ざらしにされていました。顔面は、原形をとどめないほどに崩れきっており、腕も、足も、壊れた人形のように奇妙な方向を向いていました。……私には分かります。あれは、過剰な暴行のあとです」
「…………」
「恐らく、戦いそのものは、正々堂々、真正面からのものだったのでしょう。しかし義父の仇は、決着がついた後も攻撃をやめず、命を奪うまで殴る蹴るを繰り返したのだと思います。そうでもしなければ、あんな死に方、ありえません」
死体を発見したエリスがそう言うなら、そうなのだろう。周囲の状況や死体の傷つき方を見れば、どのような戦いの末に、被害者がいかにして死んだのかは、だいたい想像することができるものね。
エリスは歯ぎしりをし、美しい鼻梁を怒りに歪め、言葉を続ける。
「激しい死闘の末、感情が収まらず、行き過ぎた暴力を振るうということも、時にはあるでしょう。でも、それでも、お義父さんの体につけられた数々の傷は、常軌を逸していました。戦った相手に対する、最低限の敬意すらない行動……あんなことをする奴を、絶対に許すことはできません……!」
エリスが現在、沈痛な面持ちで黙っているのは、単にユーゲンスに叱られたから……というだけではなく、自分の行動の意義について考えているからなのかもしれない。
……おせっかいになってしまう気もするが、私もエリスのことを諭してみようかな。『復讐の旅はやめて、もっと別の生き方を探してみたら』って。
そう思い、口を開きかけた瞬間。
エリスが私に向き直り、真剣な瞳で言う。
「お師匠様。私なりに、お義父さんの仇を捜し続ける意義について考えてみました。……お爺ちゃんの言う通り、お義父さんは、復讐など望んでいないのかもしれません。正々堂々の果し合いの結果、敗れたのに、娘の私が仇を討とうとしていることを、恥ずべきことだと思っているかもしれません」
そこで一度言葉を切り、エリスは沈黙した。
それから、万感の思いを込めるように、再び唇を開く。
「でも私は、やはり、義父の仇を許すことができません。以前にも少し申し上げましたが、義父の遺体は、無残な姿で、野ざらしにされていました。顔面は、原形をとどめないほどに崩れきっており、腕も、足も、壊れた人形のように奇妙な方向を向いていました。……私には分かります。あれは、過剰な暴行のあとです」
「…………」
「恐らく、戦いそのものは、正々堂々、真正面からのものだったのでしょう。しかし義父の仇は、決着がついた後も攻撃をやめず、命を奪うまで殴る蹴るを繰り返したのだと思います。そうでもしなければ、あんな死に方、ありえません」
死体を発見したエリスがそう言うなら、そうなのだろう。周囲の状況や死体の傷つき方を見れば、どのような戦いの末に、被害者がいかにして死んだのかは、だいたい想像することができるものね。
エリスは歯ぎしりをし、美しい鼻梁を怒りに歪め、言葉を続ける。
「激しい死闘の末、感情が収まらず、行き過ぎた暴力を振るうということも、時にはあるでしょう。でも、それでも、お義父さんの体につけられた数々の傷は、常軌を逸していました。戦った相手に対する、最低限の敬意すらない行動……あんなことをする奴を、絶対に許すことはできません……!」
13
お気に入りに追加
3,201
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?
宮城 晟峰
ファンタジー
代々、受け継がれてきた聖女の力。
それは、神との誓約のもと、決して誰にも漏らしてはいけない秘密だった。
そんな事とは知らないバカな王子に、聖女アティアは追放されてしまう。
アティアは葛藤の中、国を去り、不毛の地と言われた隣国を豊穣な地へと変えていく。
その話を聞きつけ、王子、もといい王となっていた青年は、彼女のもとを訪れるのだが……。
※完結いたしました。お読みいただきありがとうございました。
追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。
魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。
『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……
【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません
冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」
アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。
フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。
そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。
なぜなら――
「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」
何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。
彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。
国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。
「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」
隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。
一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる