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第98話

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 そして私たちは、てくてくと歩き続け、高度な建築物が立ち並ぶ『里の中枢区』を離れて、森の奥深くに入っていく。森の中には、小さな木造家屋が点在していて、そこでは、耳の短いエルフたちが、素朴な暮らしをしているようだった。

 ……なるほど。未来都市を思わせる、超先進的な『里の中枢区』に住むことができるのは、高貴なる『耳の長いエルフ』だけで、耳の短いエルフたちは、私たち人間がイメージするような、昔ながらのエルフ的狩猟生活を続けているのね。

 そんなことを思っているうちに、エリスはさらに森の深部に歩いて行く。
 当然、私もその後ろをついて行く。

 これまでは、森の中とはいえ、一応ちゃんとした道路があったのだが、とうとう舗装が無くなり、私たちは獣道を進んでいく。周りには、もう一軒の家もない。……どうやら、エリスの家族は、エルフの里の中でも、かなりの秘境に住んでいるようだ。

 私たちは草むらをかき分け、木立の間を縫い、藪の中を突っ切る。

 そしてやっと、開けた場所に出た。
 エリスがこちらを振り向き、微笑みながら「到着です」と言う。

 そこは、思わずホッとするような空間だった。

 背の高い木々に囲まれた、ログハウス。
 まさに、昔話に出てくるような『森の一軒家』そのものである。

 私は小さく感嘆のため息を漏らし、正直な気持ちをそのまま口から出した。

「素敵なところね。さっきの、『里の中枢区』の建物は未来的で、凄いとは思ったけど、私、こういうおうちの方が、風情があって好きだわ」

「うふふ、お褒めいただき光栄です。うちは、他の家からかなり離れたところにありますから、一見不便そうですが、近くには小川も流れているので、生活用水にも困りませんし、実際はとても過ごしやすいんですよ」

 エリスにそう言われてから耳を澄ますと、確かに、水の流れるかすかな音が聞こえる。それほど大きな音ではないはずなのに、聞き取ることができるのは、人の喧騒のような雑音がまったくないからだろう。

 瞳を閉じ、聴覚にだけ集中すると、風の音、こずえが揺れる音、そして川の音が合わさり、まるで森と一体化したような気分だ。さらに、柔らかな陽光が暖かく体を包み込み、とても心地よい。
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