二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ？

第９５話

「はぁ～、よくできてるわね～。なんか、別世界の乗り物って感じ。建物もすごく未来的だし、なんだか、本当に別の世界に来たみたい。……こう言っちゃなんだけど、エルフの文明がこんなに進んでるなんて、ちょっと意外だわ。あなた昔、人間の宿の給湯設備に感心してたから、えっと、その、もっと自然に近い暮らしをしてるんだと思ってた」

「自然に近い暮らしをしている部分も、たくさんありますよ。特に、『水』に関しては、古代のエルフも、現代のエルフも、まったく同じです」

「どういうこと？」

「近年、エルフの世界では、魔法と科学を併用する『魔法科学』が発展したことで、生活レベルが格段に向上しましたが、このエルフの里には給湯設備や水道が一切ありません。ですから、生活用水はすべて、自分たちで泉や川から運ばなければならないんです」

「えっ、水道もないの？　それじゃ、凄く不便じゃない？」

「それはそうですが、水道のようなものを整備してしまうと、あまりにも簡単に生活用水が手に入り、水の恵みに対する感謝の気持ちがなくなるとのことで、どんなに文明が進んでも、エルフの里では、水道や給湯設備は作らないことになっているんです」

「ふ～む……なるほど。一理あるわね。水道は便利だけど、蛇口をひねれば当たり前に水が出る生活に慣れてしまうと、確かに水の恵みに対する感謝は薄れる気がするわ。人間は『当たり前のこと』にいちいち喜んだりしなくなるものだからね。で、たまに断水になったりした時に、自由に水が使えるありがたみを思い知るのよね～」

　そんなことを話していると、すぐそばを若いエルフの男性が通りかかった。
　なんとなく目が合ったので、私は微笑を浮かべ、小さく会釈をする。

　すると……

「ちっ」

　舌打ちである。

　エルフの男性は、表情こそ特に変化はなかったものの、明らかに私を見て舌打ちし、足早にその場を離れてしまった。

　えぇ～……何その反応……けっこう傷つくんだけど……

　私はエリスの袖を引き、言いつけるように呟く。

「ね、ねえエリス。今の人に、会釈しただけで舌打ちされたんだけど、私、何かまずいことやっちゃったのかな？」