二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第87話

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「いや、他の魔物と同じく、普通のヒューマンゴブリンは、頭を潰されれば即死です。ただ私は、特別なんですよ。無限の再生能力に加え、魔王軍の将にも匹敵すほどの膂力。私がその気になれば、魔物を率いて、小さな国くらいは、簡単に征服できると思います」

「大した自信ね」

 本当に、よく喋る奴だ。
 しかしその言葉は、愚かなる過信というわけではなく、真実だろう。

 先程の攻撃は、すさまじい破壊力だった。
 単純な腕力だけなら、確かに魔王軍の将にも引けを取らない。

「まあ、あまり派手なことをすると、大国の強力な軍隊や、凄腕の冒険者、あるいは勇者に目をつけられてしまいますからね。賢い私は、目立たぬように、目立たぬように、夜の闇に紛れて小さな町や村を襲い、欲望を満たしているというわけです。子供を食べ、男を殺し、女を攫う。ささやかながらも、なかなか幸せな日々ですよ」

 ……この野郎。たくさんの人を苦しめておいて、何が『ささやかながらも、なかなか幸せな日々』よ。私は歯ぎしりし、今すぐにでもこいつの頭をもう一度砕いてやりたくなったが、まだ聞かなきゃいけないことがある。

 私は理性の力でグッと怒りをおさえ込むと、なるべく落ち着いた声で問う。

「あんたみたいに『特別』な魔物って、けっこういるの?」

 これだけは、絶対に聞いておかなければならないことだった。不死身な上に残忍で狡猾、そして圧倒的な攻撃力を持った魔物が山ほどいるなら、偉い人たちにその情報を伝え、何らかの対抗策を考えてもらわなければいけないからだ。

 ヒューマンゴブリンは顎に手をやり、数秒考えてから、答える。

「う~ん、あまり……というか、ほとんどいないと思います。あの人も、私のことを『非常に貴重な成功例だ』って言ってましたし」

「あの人? あの人って、誰?」

「ふふふ、さっきは説明の途中で遮ったくせに、今度は質問攻めですか。つくづく強気で、勝手な人ですね。……でも私、強気な人って、好きですよ」

 ヒューマンゴブリンは、そこで一度言葉を切り、私の後ろで気を失っている長い髪の女性を指さしながら、語り続ける。

「そこで寝てる彼女は、この近くの村を守っていた、村一番の女剣士でした。強く、凛々しく、どんな苦境でも決して諦めない。まさに、私の理想のタイプです。……そういう強い女を、徹底的にいたぶって、モノ扱いして、自尊心をへし折ってやるのが、一番面白いんですよ」
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