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第83話
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男は、そんな私たちを見て苦笑し、小さく肩をすくめると、頭部がなくなったまま転がっているゴブリンたちの死体のところに歩いて行く。そして、ゴブリンの死体をしばらく眺めてから、もう一度私たちに話しかけてくる。
「いやあ、凄いなあ。皆、一撃で殺されてる。しかもこれ、素手でやったんですよね? やったのはどっちです? エルフのお姉さんですか? それとも、あなたですか?」
男は、『あなたですか?』と言いながら、私を指さした。
その指を見て、私は顔をしかめた。
あることに気がついたからだ。
この男の指。
長い。
そして、太い。
爪も鋭くとがり、常人の四倍以上の長さがある。
……まあ、それだけなら、別に顔をしかめるようなことじゃない。世の中には、指の長い男も、指の太い男も、いくらでもいる。爪をとがらせ、長く伸ばしている男はそうはいないだろうが、まったくいないこともないだろう
私が顔をしかめたのは、男の指のサイズや爪の長さよりも、指を含めた『手全体』の異様さについてだ。手の甲から指先に至るまで、太い血管が皮膚を突き破らんばかりに浮かび上がっており、時折、不気味に律動している。……それはまるで、魔物の手のようだった。
この男……
いや、こいつは、まさか……
私の頭の中で、何らかの思考がまとまりつつあり、私はそれを短い言葉にして、言い放つ。
「あなた、人間じゃないでしょ」
男は、長く太い指で口元を押さえ、おかしそうに笑った。
「ふふ、ふふふっ、人のうちに勝手に入って来て、仲間たちを皆殺しにした挙句、『あなた、人間じゃないでしょ』とは、なんて失礼な人だ。失礼すぎて、逆におもしろいですよ。あははっ」
人のうちに勝手に入って来て――
その言葉を素直に解釈するなら、このゴブリンの巣が、男のうちということになる。……つまり、この男は、ゴブリンなの? 私は男を警戒しながらエリスに視線を向け、問う。
「エリス、これ、どういうこと? こいつ、喋り方は流暢だし、手以外は普通の人間みたいに見えるけど、こんな感じのゴブリンもいるわけ?」
エリスも私と同じように、男に対して警戒態勢を保ったまま、答える。
「いえ、私の知る限り、こんなゴブリンは見たことがありません。しかしこの男は、間違いなくゴブリンの一種だと思います。上手く説明できませんが、ゴブリンたちと同じような、嫌な気配を感じます」
私には、エリスの言っていることがよく分かった。
ついさっき、この男がにこやかに話しかけてきたときに感じた、あの言いようのない不快感。それは、ゴブリンの集団が発する嘲りの声を聞いた時によく似た、嫌な感覚だったからである。
「いやあ、凄いなあ。皆、一撃で殺されてる。しかもこれ、素手でやったんですよね? やったのはどっちです? エルフのお姉さんですか? それとも、あなたですか?」
男は、『あなたですか?』と言いながら、私を指さした。
その指を見て、私は顔をしかめた。
あることに気がついたからだ。
この男の指。
長い。
そして、太い。
爪も鋭くとがり、常人の四倍以上の長さがある。
……まあ、それだけなら、別に顔をしかめるようなことじゃない。世の中には、指の長い男も、指の太い男も、いくらでもいる。爪をとがらせ、長く伸ばしている男はそうはいないだろうが、まったくいないこともないだろう
私が顔をしかめたのは、男の指のサイズや爪の長さよりも、指を含めた『手全体』の異様さについてだ。手の甲から指先に至るまで、太い血管が皮膚を突き破らんばかりに浮かび上がっており、時折、不気味に律動している。……それはまるで、魔物の手のようだった。
この男……
いや、こいつは、まさか……
私の頭の中で、何らかの思考がまとまりつつあり、私はそれを短い言葉にして、言い放つ。
「あなた、人間じゃないでしょ」
男は、長く太い指で口元を押さえ、おかしそうに笑った。
「ふふ、ふふふっ、人のうちに勝手に入って来て、仲間たちを皆殺しにした挙句、『あなた、人間じゃないでしょ』とは、なんて失礼な人だ。失礼すぎて、逆におもしろいですよ。あははっ」
人のうちに勝手に入って来て――
その言葉を素直に解釈するなら、このゴブリンの巣が、男のうちということになる。……つまり、この男は、ゴブリンなの? 私は男を警戒しながらエリスに視線を向け、問う。
「エリス、これ、どういうこと? こいつ、喋り方は流暢だし、手以外は普通の人間みたいに見えるけど、こんな感じのゴブリンもいるわけ?」
エリスも私と同じように、男に対して警戒態勢を保ったまま、答える。
「いえ、私の知る限り、こんなゴブリンは見たことがありません。しかしこの男は、間違いなくゴブリンの一種だと思います。上手く説明できませんが、ゴブリンたちと同じような、嫌な気配を感じます」
私には、エリスの言っていることがよく分かった。
ついさっき、この男がにこやかに話しかけてきたときに感じた、あの言いようのない不快感。それは、ゴブリンの集団が発する嘲りの声を聞いた時によく似た、嫌な感覚だったからである。
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