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第74話

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「お酒?」

「あ、ごめん、こっちの話。さあ、行きましょ。だいたい、罠があるって言うなら、なおさら二人で行った方がいいじゃないの。一人が罠にかかっても、もう一人が助けられるんだから」

「そ、そうですね……わかりました。では、足元に気を付けて、私の後ろをついて来てください」

「はーい」

 そして私たちは、ゴブリンの巣である、薄暗い洞窟の中に足を踏み入れた。

 ゆっくりと、地面の感触を確かめるように、一歩ずつ進んでいくエリス。度胸のある彼女にしては随分と慎重な動きだが、それも当然である。足元には、びっしりと湿った苔が生い茂っていて、とても滑りやすいのだ。

 しかも、あちらこちらに、槍のように尖った石が突き出ており、苔で滑って転んだなら、かなりの確率で尖った石に体を貫かれてしまうだろう。

 私は、そろりそろりとエリスの後ろをついて行き、尖った石を見ながら、問う。

「ねえ、もしかしてあなたがさっき言ってた『罠』って、このやたらと滑る苔と、尖った石のこと?」

 エリスは、こちらを振り向かず、注意深く正面を見据えながら、答える。

「はい。どんなゴブリンの巣にも必ずある罠です。どうやらゴブリンたちはこの苔を、自分で栽培しているみたいですね」

「へえ、驚いた。ゴブリンって、園芸もできるのね。でも、こんな単純な罠、しっかり注意していれば、引っかかる人なんていないんじゃない?」

「それが、そうでもないんです。確かに、ハッキリと見えていますし、とても原始的で幼稚な罠ですが、それが逆に危ないんですよ」

「どういうこと?」

「『こんなもの、引っかかるわけがない』と決めつけると、どんなに注意深い人も、あまり警戒をしなくなります。そして、ちょうど警戒心が薄くなったタイミングで……」

 その時だった。
 私の足元が、ずるりと動いた。
 私は大きくバランスを崩し、転びそうになる。

 だが、そこは身体能力に自信のある私。
 空中で華麗に一回転して、尖った石に突っ込むことなく、元の姿勢に戻った。

 エリスは振り返り、ホッと息を吐いて微笑んだ。

「さすがはお師匠様。ゴブリンごときの罠など、お師匠様にとっては、警戒するまでもないかもしれませんね」

「いや、でも、今のは正直言ってビックリしたわ。足元の苔が、まるで生き物みたいに動いて、強引に足を滑らされたみたいな感じだったもの」

「おっしゃる通りです。この苔の下には、接触しない限りは動かない、平たいヒルのような生き物が点在しています。お師匠様は今、そのヒルを踏んでしまったのでしょう」

「へえ……それって、ヒルが偶然苔の下にいたってわけじゃないわよね?」
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