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第60話
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戦いが始まってから、もう5分は経過しただろうか。私とラジアスは、膠着状態になりつつあった寝技の攻防をやめ、同時に立ち上がると、いったん距離を取り、対峙する。
「ふぅっ、ふぅっ」
荒い呼吸音が聞こえる。
これは、私のものだ。
情けない。
しばらく鍛錬をサボっていたせいで、たった5分の戦いで、息が上がっている。
いや、たとえ鍛錬不足の体でも、格下の相手なら、10分だろうが20分だろうが余裕であしらうことができるが、やはり、勇者ラジアスほどの実力者が相手の場合、怠けていた影響が、スタミナ面でもろに出てしまうようだ。
だが、息が上がっているのは私だけではない。
ラジアスも、いつもはクールな顔を、やや苦しそうに歪めて、肩で大きく息をしている。ラジアスは額の汗を拭い、自分自身の疲れをごまかすように、私に挑発的な言葉を投げかけた。
「どうした、ディーナ。随分と息が上がっているぞ。お前ほどの女が、情けない。パーティーを離脱してから、のんびりしすぎて運動不足なのか?」
私は、今まさに顎から垂れ落ちそうになっていた汗を腕で拭うと、お返しするようにラジアスを挑発した。
「あら、あなたこそ、顔色が良くないわよ。私を追い出してから、パーティー運営がうまくいっていなかった疲れが、まだ抜けてないんじゃない?」
その言葉で、ラジアスが微笑みを浮かべた。こちらを侮るような嫌な笑みではなく、まるで、過去の自分の行動を恥じているような、自嘲気味な笑顔だった。
「そうかもな。お前がいなくなってから、苦労をしっぱなしだったからな。馬鹿な理由でお前を追放した過去の俺を、張り倒してやりたいよ」
「なによ、今日は随分と素直なのね」
「俺はもともと、素直な性格だよ。性格が少々きつくなったのは、勇者に選ばれてからだ。恐らく、勇者としての自負心と緊張感が、俺の心を常に張り詰めさせているのだろう」
「へえ、そういうのも、『立場が人を作る』って言うのかしらね。でも、いつも張り詰めてる怖い勇者より、素直で優しい勇者の方が、皆に好かれるんじゃない?」
「ふっ、かもな」
互いに戦闘態勢を保ったまま、少しだけ会話をしたことで、呼吸は落ち着いたが、全身に蓄積したダメージと疲労は、すぐには回復しない。それはラジアスも同じようであり、彼はやや疲れた顔で、小さく息を吐いてから、仕切り直しするかのように言う。
「……さて、お互いにスタミナが落ちているようだし、長期戦はやりたくないものだな」
「そのとおりね。それに、この荒野、町から少しは離れているとはいえ、街道には近いから、いつまでもこんなところで戦ってたら、道を行く旅人か行商人に、町の衛兵を呼ばれそうだわ」
「ふぅっ、ふぅっ」
荒い呼吸音が聞こえる。
これは、私のものだ。
情けない。
しばらく鍛錬をサボっていたせいで、たった5分の戦いで、息が上がっている。
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だが、息が上がっているのは私だけではない。
ラジアスも、いつもはクールな顔を、やや苦しそうに歪めて、肩で大きく息をしている。ラジアスは額の汗を拭い、自分自身の疲れをごまかすように、私に挑発的な言葉を投げかけた。
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