二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第54話

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 まさか、超俺様系である勇者ラジアスの口から謝罪の言葉が出てくるとは思っていなかったので、私は少々慌てながら、なんとか言葉を紡いでいく。

「そ、そうなの……トレイボンの怪我は、酷いの?」

「傷口自体は、ヒーラーの治癒魔法でふさがったが、体力を取り戻すには長い時間がかかる。少なくとも半年は、パーティーに加入することはできないだろう」

「そう……でも、命が無事だったなら、何よりだわ。……あれ、ちょっと待って。トレイボンが離脱して、ヒーラーも故郷に帰っちゃったのなら、今の勇者パーティーはどうなってるの?」

「どうもこうもない。俺一人だ」

「えっ、じゃあ、一人で魔王討伐の旅を続けるつもり?」

「一人でできるならそうしたいけどね。魔王軍がそんなに甘い相手じゃないことは、お前も良く知っているだろう。……なあ、ディーナ。いい加減に気づいてくれ。なぜ俺が、再びお前の前に姿を現し、謝罪までしたのか」

 なぜって……
 そりゃ、頭を下げてでも、何か頼みたいことがあるからでしょうね……

 ……あっ。

 ああぁ~……
 そういうこと……

 やっとこさラジアスが現れた理由に思い至った私を、ラジアスは真剣なまなざしで見つめ、力強く言う。

「ディーナ、俺と共に来い。もちろん、今までよりも待遇は改善する。そうだな……前回と違い、今回は給料を三倍払おう。お前には、三人分の働きをしてもらうわけだからな」

 かぁ~。『俺と共に来い』か。
 ほんと、俺様系なんだから。

 別にお高くとまるつもりはないけど、せめて『一緒に来てくれ』とか、『お前の力が必要なんだ』とか、もうちょっと頼み方があるでしょ……

 まあ、ラジアスにとって親友だった大魔導師トレイボンがリタイアし、ヒーラーもいなくなったせいで、勇者パーティーが崩壊したことは気の毒に思うが、しかし……

「申し訳ないけど、お断りするわ」

 私とラジアスの間に、しばしの沈黙が流れる。
 静寂を打ち破ったのは、ラジアスの問いだった。

「やはり、身勝手な理由でお前を追放した俺を恨んでいるのか?」

「別に恨んではいないわ。好きでもないけどね」

「相変わらずハッキリ言う女だ。気に入らんな。……どうすれば、また、パーティーに加入する気になる?」

 正直に言えば、もうパーティーに戻る気はないのだが、こうしてラジアスと話すことのできる機会は、二度と訪れないかもしれないので、私はずっと気になっていたことを尋ねることにした。

「ねえ、ラジアス。あなたは何故、魔物と戦い、そして、魔物たちの王である魔王を倒そうとするの?」

 ラジアスは、『なぜ今、そんなことを聞く?』とでも言いたげな表情になったが、素直に、そして短く、私の問いに答えた。

「それが、選ばれし勇者の役目だからだ」
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