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第26話
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突然の謝罪に、長身の男はしばらく黙っていた。
それから、くすくすと含み笑いをして、言う。
「面白い冗談だとは思うが、今はあまり、冗談を楽しむ気分じゃないんだ。お姉さん、あんたの細腕で、どうやったら弟を叩きのめせるって言うんだ?」
長身の男の問いに、エルフの女の子は拳を見せつけ、先程と同じく、アクアブルーのオーラを発現させた。
「はい! この、『エルフ式魔術ボクシング』の『魔拳』でぶちのめしました!」
ちょっとちょっと……
なんで若干誇らしげなのよ……
この子、ちょっと……いや、かなり天然が入ってるわね。
長身の男は、もう『面白い冗談』だと笑っていなかった。雰囲気から察するに、この男は、弟よりも数段上の使い手だ。エルフの女の子の『魔拳』を見て、彼女の言っていることが真実だと悟ったのだろう。小さく息を吐き、低く、重たい言葉を発する。
「そうか。こんな可愛らしい女の子にやられるなんて、まったく、どうしようもない弟だ。……お姉さん、あんた、名前は?」
「はい! エリス・ルセインといいます!」
「そうかい。エリスさん、今までの話を聞いていたなら分かるだろうが、酔っ払い同士の喧嘩とはいえ、あんたのような女の子に、弟がのされちまい、兄貴の俺が、何の報復もしなかったとなれば、俺たちの商売は、明日から立ち行かなくなる。……悪いけど、死んでもらうよ。表に出な」
ちょっ。
いきなり手を出したエルフの女の子――エリスにも悪いところはあるけど、何も、命まで奪わなくてもいいじゃない。私は身を乗り出して、仲裁に入ろうとしたが、それよりも早く、エリスが言葉を発した。
「いいですよ! 正々堂々、お相手しましょう!」
えぇ~……
そんな、安請け合いしちゃっていいの……?
これから、命をかけた戦いをすることになるのよ?
しかも、相手は相当な使い手だ。
この子、そんなに自分の強さに自信があるのかしら……
長身の男は、「ふん」と鼻を鳴らし、それから踵を返す。
ズボンの両ポケットに手を入れ、「ついて来な」と言い、ゆったりと歩き出したその姿は、底知れない迫力と、凄味があった。
そんな、凄味のある男のうなじ――いわゆる、脊髄のあたりに向かって、エリスはニコニコ笑顔で拳を振りかぶった。前腕全体に、アクアブルーのオーラが色濃く揺らめいている。
えっ。
ちょっ。
この子、まさか……
ズゴッ。
凄い音がした。
エリスが、振りかぶった『魔拳』で、背後から長身の男の脊髄を、思いっきり打ち抜いたのだ。……一切の遠慮も加減もない、清々しいほどの不意打ちだった。
それから、くすくすと含み笑いをして、言う。
「面白い冗談だとは思うが、今はあまり、冗談を楽しむ気分じゃないんだ。お姉さん、あんたの細腕で、どうやったら弟を叩きのめせるって言うんだ?」
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「はい! この、『エルフ式魔術ボクシング』の『魔拳』でぶちのめしました!」
ちょっとちょっと……
なんで若干誇らしげなのよ……
この子、ちょっと……いや、かなり天然が入ってるわね。
長身の男は、もう『面白い冗談』だと笑っていなかった。雰囲気から察するに、この男は、弟よりも数段上の使い手だ。エルフの女の子の『魔拳』を見て、彼女の言っていることが真実だと悟ったのだろう。小さく息を吐き、低く、重たい言葉を発する。
「そうか。こんな可愛らしい女の子にやられるなんて、まったく、どうしようもない弟だ。……お姉さん、あんた、名前は?」
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「そうかい。エリスさん、今までの話を聞いていたなら分かるだろうが、酔っ払い同士の喧嘩とはいえ、あんたのような女の子に、弟がのされちまい、兄貴の俺が、何の報復もしなかったとなれば、俺たちの商売は、明日から立ち行かなくなる。……悪いけど、死んでもらうよ。表に出な」
ちょっ。
いきなり手を出したエルフの女の子――エリスにも悪いところはあるけど、何も、命まで奪わなくてもいいじゃない。私は身を乗り出して、仲裁に入ろうとしたが、それよりも早く、エリスが言葉を発した。
「いいですよ! 正々堂々、お相手しましょう!」
えぇ~……
そんな、安請け合いしちゃっていいの……?
これから、命をかけた戦いをすることになるのよ?
しかも、相手は相当な使い手だ。
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