二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

文字の大きさ
上 下
14 / 389

第14話

しおりを挟む
「なるほどね」

「しかし、こうして、拙僧を倒すために、ベイロン様を倒した勇者パーティーの一員である聖女ディーナ様がやって来てくれるとは、不思議な運命を感じます。主君が敗れた相手と全力で戦い、自分もまた倒されるというのは、思ったより悪い気分ではありませんよ。むしろ、誇らしくすらある」

「そう。あなた、根っからの武人なのね。情けない愚痴も、恨みごとも、一切言わない。その潔さ、尊敬できるわ」

「ふふ、聖女ディーナ様ほどの方に『武人』と呼んでいただけるとは、主君の死後、無駄に生きながらえた甲斐がありました。……それでは、聖女ディーナ様。そろそろ、『とどめ』を」

 私は、かすかにだが、重たいため息を漏らした。

 人間の懸賞首は、よほどの凶悪犯でない限り、生きたまましょっ引いていくのが通例なのだが、魔物の懸賞首は、その場で殺害し、文字通り『首』を持っていくことで、懸賞金をもらえるシステムになっている。

 町の中に手負いの魔物を連れて行くわけにはいかないので、まあ、よく考えられた仕組みだとは思うが、しかし……

「私、なんだか、あなたを殺すの、嫌だわ。賞金首にされた理由だって、正当防衛に近いし、何よりあなたは、ただの悪党じゃなくて、ちゃんとした武人だもの」

「いえ、拙僧はただの人殺しですよ。先程は偉そうに講釈を垂れましたが、拙僧はその気になれば、襲ってきた冒険者たちを、適当にあしらって撃退することもできた。……しかし、そうしなかった。結局は心の中に、人間に対する怒りや憎しみがあったのかもしれません、恥ずべきことですが」

「…………」

「それにもう、ベイロン様のいない世で生きていくことに、疲れ果てました。真の強者である聖女ディーナ様と戦い、敗れ、殺してもらえるなら、これほど喜ばしいことはありません。『武人』のあなたなら、この気持ち、分かるはずです。どうか、拙僧を救うと思い、とどめを刺してはもらえませんか?」

「それが、あなたの望みなの?」

「はい。これ以上ないほどの」

「……分かったわ。最後に、あなたの名前、教えてもらえる?」

 魔物は、笑った。

「愚僧に、名などありません」

 そして私は、彼にとどめを刺した。

 ……彼の最後の言葉は、「ありがとう」だった。





 色々と思うところあり、私は彼を、洞穴の中に埋葬した。

 首は、取らなかった。

 彼にはかなりの懸賞金がかかっていたが、『武人の死』と『お金』を引き換えにすることが、なんだか酷く恥ずかしいことに思えたのだ。

 そして、数日後の朝。

 私は、一人、宿のベッドに横たわり、ぼおっと天井を見ている。
 自然と、独り言が、口から出た。

「あんな懸賞首……いえ、あんな魔物も、いるのね……」

 これまで私は、魔物はもちろんだが、懸賞首に対しても、ただの悪党であり、問答無用でぶっ飛ばせばいいと思っていたが、彼らにも、彼らなりの人生や苦悩、そして誇りがあるのだと思うと、なんとなく、新しい懸賞首を探し出し、狩る気にならなかった。

 まあ、これまでの懸賞首狩りで、かなりのお金が溜まったので、しばらくは働かなくても暮らしていけるが、これからもバウンティハンターを続けるかどうかは、少し考えた方がいいかもしれない。

「賞金首狩り以外で、何か、私の能力を活かせるような仕事ってないかなぁ……」

 その時だった。開きっぱなしになっていた窓から、「朝刊でーす」という軽快な声と共に、新聞が投げ入れられた。

 ああ~……
 新聞配達の人、また部屋を間違えてる……

 私は新聞を取っていないのだが、隣の部屋の人が朝刊の購読サービスを利用しているらしく、窓の外観がまったく同じせいもあって、新聞配達のおじさんが、かなりの頻度で配達する部屋を間違えてしまうのだ。
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

聖女をクビにされ、婚約者も冷たいですが、優しい義兄がいるので大丈夫です【完結】

小平ニコ
恋愛
ローレッタは『聖女』として忙しいながらも充実した日々を送っていたが、ある日突然上司となった無能貴族エグバートの機嫌を損ね、『聖女』をクビとなり、住んでいた寮も追放されてしまう。 失意の中、故郷に戻ったローレッタ。 『聖女』でなくなったことで、婚約者には露骨に冷たい態度を取られ、その心は深く傷つく。 だが、優しい義兄のおかげで少しずつ元気を取り戻し、なんとか新しい生活に馴染み始めたころ、あのエグバートから手紙が届いた。『大変なことになっているから、今すぐ戻ってこい』と。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

処理中です...