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第14話
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「なるほどね」
「しかし、こうして、拙僧を倒すために、ベイロン様を倒した勇者パーティーの一員である聖女ディーナ様がやって来てくれるとは、不思議な運命を感じます。主君が敗れた相手と全力で戦い、自分もまた倒されるというのは、思ったより悪い気分ではありませんよ。むしろ、誇らしくすらある」
「そう。あなた、根っからの武人なのね。情けない愚痴も、恨みごとも、一切言わない。その潔さ、尊敬できるわ」
「ふふ、聖女ディーナ様ほどの方に『武人』と呼んでいただけるとは、主君の死後、無駄に生きながらえた甲斐がありました。……それでは、聖女ディーナ様。そろそろ、『とどめ』を」
私は、かすかにだが、重たいため息を漏らした。
人間の懸賞首は、よほどの凶悪犯でない限り、生きたまましょっ引いていくのが通例なのだが、魔物の懸賞首は、その場で殺害し、文字通り『首』を持っていくことで、懸賞金をもらえるシステムになっている。
町の中に手負いの魔物を連れて行くわけにはいかないので、まあ、よく考えられた仕組みだとは思うが、しかし……
「私、なんだか、あなたを殺すの、嫌だわ。賞金首にされた理由だって、正当防衛に近いし、何よりあなたは、ただの悪党じゃなくて、ちゃんとした武人だもの」
「いえ、拙僧はただの人殺しですよ。先程は偉そうに講釈を垂れましたが、拙僧はその気になれば、襲ってきた冒険者たちを、適当にあしらって撃退することもできた。……しかし、そうしなかった。結局は心の中に、人間に対する怒りや憎しみがあったのかもしれません、恥ずべきことですが」
「…………」
「それにもう、ベイロン様のいない世で生きていくことに、疲れ果てました。真の強者である聖女ディーナ様と戦い、敗れ、殺してもらえるなら、これほど喜ばしいことはありません。『武人』のあなたなら、この気持ち、分かるはずです。どうか、拙僧を救うと思い、とどめを刺してはもらえませんか?」
「それが、あなたの望みなの?」
「はい。これ以上ないほどの」
「……分かったわ。最後に、あなたの名前、教えてもらえる?」
魔物は、笑った。
「愚僧に、名などありません」
そして私は、彼にとどめを刺した。
……彼の最後の言葉は、「ありがとう」だった。
・
・
・
色々と思うところあり、私は彼を、洞穴の中に埋葬した。
首は、取らなかった。
彼にはかなりの懸賞金がかかっていたが、『武人の死』と『お金』を引き換えにすることが、なんだか酷く恥ずかしいことに思えたのだ。
そして、数日後の朝。
私は、一人、宿のベッドに横たわり、ぼおっと天井を見ている。
自然と、独り言が、口から出た。
「あんな懸賞首……いえ、あんな魔物も、いるのね……」
これまで私は、魔物はもちろんだが、懸賞首に対しても、ただの悪党であり、問答無用でぶっ飛ばせばいいと思っていたが、彼らにも、彼らなりの人生や苦悩、そして誇りがあるのだと思うと、なんとなく、新しい懸賞首を探し出し、狩る気にならなかった。
まあ、これまでの懸賞首狩りで、かなりのお金が溜まったので、しばらくは働かなくても暮らしていけるが、これからもバウンティハンターを続けるかどうかは、少し考えた方がいいかもしれない。
「賞金首狩り以外で、何か、私の能力を活かせるような仕事ってないかなぁ……」
その時だった。開きっぱなしになっていた窓から、「朝刊でーす」という軽快な声と共に、新聞が投げ入れられた。
ああ~……
新聞配達の人、また部屋を間違えてる……
私は新聞を取っていないのだが、隣の部屋の人が朝刊の購読サービスを利用しているらしく、窓の外観がまったく同じせいもあって、新聞配達のおじさんが、かなりの頻度で配達する部屋を間違えてしまうのだ。
「しかし、こうして、拙僧を倒すために、ベイロン様を倒した勇者パーティーの一員である聖女ディーナ様がやって来てくれるとは、不思議な運命を感じます。主君が敗れた相手と全力で戦い、自分もまた倒されるというのは、思ったより悪い気分ではありませんよ。むしろ、誇らしくすらある」
「そう。あなた、根っからの武人なのね。情けない愚痴も、恨みごとも、一切言わない。その潔さ、尊敬できるわ」
「ふふ、聖女ディーナ様ほどの方に『武人』と呼んでいただけるとは、主君の死後、無駄に生きながらえた甲斐がありました。……それでは、聖女ディーナ様。そろそろ、『とどめ』を」
私は、かすかにだが、重たいため息を漏らした。
人間の懸賞首は、よほどの凶悪犯でない限り、生きたまましょっ引いていくのが通例なのだが、魔物の懸賞首は、その場で殺害し、文字通り『首』を持っていくことで、懸賞金をもらえるシステムになっている。
町の中に手負いの魔物を連れて行くわけにはいかないので、まあ、よく考えられた仕組みだとは思うが、しかし……
「私、なんだか、あなたを殺すの、嫌だわ。賞金首にされた理由だって、正当防衛に近いし、何よりあなたは、ただの悪党じゃなくて、ちゃんとした武人だもの」
「いえ、拙僧はただの人殺しですよ。先程は偉そうに講釈を垂れましたが、拙僧はその気になれば、襲ってきた冒険者たちを、適当にあしらって撃退することもできた。……しかし、そうしなかった。結局は心の中に、人間に対する怒りや憎しみがあったのかもしれません、恥ずべきことですが」
「…………」
「それにもう、ベイロン様のいない世で生きていくことに、疲れ果てました。真の強者である聖女ディーナ様と戦い、敗れ、殺してもらえるなら、これほど喜ばしいことはありません。『武人』のあなたなら、この気持ち、分かるはずです。どうか、拙僧を救うと思い、とどめを刺してはもらえませんか?」
「それが、あなたの望みなの?」
「はい。これ以上ないほどの」
「……分かったわ。最後に、あなたの名前、教えてもらえる?」
魔物は、笑った。
「愚僧に、名などありません」
そして私は、彼にとどめを刺した。
……彼の最後の言葉は、「ありがとう」だった。
・
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色々と思うところあり、私は彼を、洞穴の中に埋葬した。
首は、取らなかった。
彼にはかなりの懸賞金がかかっていたが、『武人の死』と『お金』を引き換えにすることが、なんだか酷く恥ずかしいことに思えたのだ。
そして、数日後の朝。
私は、一人、宿のベッドに横たわり、ぼおっと天井を見ている。
自然と、独り言が、口から出た。
「あんな懸賞首……いえ、あんな魔物も、いるのね……」
これまで私は、魔物はもちろんだが、懸賞首に対しても、ただの悪党であり、問答無用でぶっ飛ばせばいいと思っていたが、彼らにも、彼らなりの人生や苦悩、そして誇りがあるのだと思うと、なんとなく、新しい懸賞首を探し出し、狩る気にならなかった。
まあ、これまでの懸賞首狩りで、かなりのお金が溜まったので、しばらくは働かなくても暮らしていけるが、これからもバウンティハンターを続けるかどうかは、少し考えた方がいいかもしれない。
「賞金首狩り以外で、何か、私の能力を活かせるような仕事ってないかなぁ……」
その時だった。開きっぱなしになっていた窓から、「朝刊でーす」という軽快な声と共に、新聞が投げ入れられた。
ああ~……
新聞配達の人、また部屋を間違えてる……
私は新聞を取っていないのだが、隣の部屋の人が朝刊の購読サービスを利用しているらしく、窓の外観がまったく同じせいもあって、新聞配達のおじさんが、かなりの頻度で配達する部屋を間違えてしまうのだ。
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