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第139話
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私は、今思った通りのことを、ほとんどそのまま口に出した。
「フェルヴァは、どうなってしまったのかしら……」
リーゼルは、じっと夜空を見つめ、言う。
「……わからない。少なくとも、この近くにいないことは、確かだろう。まったく気配を感じないからな」
「あれほどの魔法使いなら、まさか、自分の方に戻ってきた太陽に、飲み込まれてしまったってことはないでしょうけど、いきなり姿を消して、ちょっと不気味だわ。また、だしぬけに危険な魔法を使って、攻撃してきたりしないかしら」
「なあ、『親馬鹿』ならぬ『姉馬鹿』の戯言だと思って、聞いてほしいんだけどさ」
「何?」
「……あんたを責めるわけじゃないけど、フェルヴァは、あんたに煽られたせいで正気を失い、あんな魔法を使っただけで、基本的には、俺との約束を守るつもりなんだよ。だから、たぶん今は正気に戻って、約束通りに、この町から姿を消したんだと思う。あいつ、本当に、約束を破ったりするのは、嫌いだから」
「…………」
「本当は……本当はさ……あいつ、あんなんじゃないんだよ……ちょっとワガママな所はあったけど、本当のフェルヴァは誰よりも優しくて、純粋だった……そんなあいつを、親父と俺が、怪物に変えちまったんだ……だから、頼むよ……あいつのこと……あんまり悪く思わないでやってくれ……」
リーゼルの、あまりにも痛々しく、悲しげな様子に、私はそれ以上、何も言えなくなってしまった。……『本当のフェルヴァ』か。私は、変化の魔法を解除する際に話しかけてきた、『本当のフェルヴァ』とやらの言葉を思い出していた。
『私を、憐れんでくれるの? ありがとう、優しい聖女さん』
……穏やかで、優しい声だった。すべての人間を嫌悪・侮蔑し、今さっき、恐るべき魔法でこの町を崩壊させようとしていた魔女と同一人物だとは、とても思えない声だった。
フェルヴァ・アストラスとは、結局、何者だったのだろうか?
彼女の身に起こったおぞましい悲劇は、おおよそ見当がつく。しかし、彼女がいかにして超常の存在になりえたのか、その疑問は、謎のままだ。
その問いに答えることのできる者は、少なくとも、今はいない。
だから私は、とりあえず考えるのをやめ、礼拝堂に仰向けになった。
リーゼルもそれに倣い、体を倒す。
私たちは、無言で、夜空を眺めた。
本当に、月の美しい夜だった。
「フェルヴァは、どうなってしまったのかしら……」
リーゼルは、じっと夜空を見つめ、言う。
「……わからない。少なくとも、この近くにいないことは、確かだろう。まったく気配を感じないからな」
「あれほどの魔法使いなら、まさか、自分の方に戻ってきた太陽に、飲み込まれてしまったってことはないでしょうけど、いきなり姿を消して、ちょっと不気味だわ。また、だしぬけに危険な魔法を使って、攻撃してきたりしないかしら」
「なあ、『親馬鹿』ならぬ『姉馬鹿』の戯言だと思って、聞いてほしいんだけどさ」
「何?」
「……あんたを責めるわけじゃないけど、フェルヴァは、あんたに煽られたせいで正気を失い、あんな魔法を使っただけで、基本的には、俺との約束を守るつもりなんだよ。だから、たぶん今は正気に戻って、約束通りに、この町から姿を消したんだと思う。あいつ、本当に、約束を破ったりするのは、嫌いだから」
「…………」
「本当は……本当はさ……あいつ、あんなんじゃないんだよ……ちょっとワガママな所はあったけど、本当のフェルヴァは誰よりも優しくて、純粋だった……そんなあいつを、親父と俺が、怪物に変えちまったんだ……だから、頼むよ……あいつのこと……あんまり悪く思わないでやってくれ……」
リーゼルの、あまりにも痛々しく、悲しげな様子に、私はそれ以上、何も言えなくなってしまった。……『本当のフェルヴァ』か。私は、変化の魔法を解除する際に話しかけてきた、『本当のフェルヴァ』とやらの言葉を思い出していた。
『私を、憐れんでくれるの? ありがとう、優しい聖女さん』
……穏やかで、優しい声だった。すべての人間を嫌悪・侮蔑し、今さっき、恐るべき魔法でこの町を崩壊させようとしていた魔女と同一人物だとは、とても思えない声だった。
フェルヴァ・アストラスとは、結局、何者だったのだろうか?
彼女の身に起こったおぞましい悲劇は、おおよそ見当がつく。しかし、彼女がいかにして超常の存在になりえたのか、その疑問は、謎のままだ。
その問いに答えることのできる者は、少なくとも、今はいない。
だから私は、とりあえず考えるのをやめ、礼拝堂に仰向けになった。
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私たちは、無言で、夜空を眺めた。
本当に、月の美しい夜だった。
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