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第112話(リーゼル視点)

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 だから俺は、小さな手で、フェルヴァの手を取り、ずっとかけてやることができなかった、優しい言葉をかけた。

「フェルヴァ、もう一度だけ謝らせてくれ。……今まで、本当にすまなかった。これからはお前のことを第一に考えるよ。だから、日中、お前がどこに行っているのか教えてくれ。俺も、お前のやってることを、手伝いたいんだ」

 心からの言葉だった。
 フェルヴァは俺の手を握り返し、ニタリと笑った。

「嬉しいわ、姉さん。……それじゃ、姉さんも入ってくれるわね。『至高なる魔女の会』に」





『至高なる魔女の会』に入会してから、しばらくの時が経った。

 会の人間たちから女神のように崇められているフェルヴァの姉ということで、俺も皆から『リーゼル様』と慕われ、正直言って、少しだけ良い気分だった。

 優越感が満たされたから――というわけではない。

 親父の恥部が明るみになって以来、アストラス家の長女にして親父の秘書であった俺は、世間からひたすらに嗤われ、軽蔑されてきたので、『至高なる魔女の会』の皆が、俺に人間としての敬意を持って接してくれるのが、単純に嬉しかったのだ。

 もちろん、『至高なる魔女の会』の基本理念である『魔法使い優生思想』に対しては、傲慢で危険な考えだと思っていた。だが、フェルヴァは別段、一般市民たちに危害を加えることもなく、魔法使いたちを率いて反乱を起こしたりする気もないようなので、いつしか俺は、こう思うようになった。

 社会に居場所のない孤独な魔法使いたちの心を救うために、わざわざ『魔法使い優生思想』だなんて極端な考えを看板に掲げているだけで、フェルヴァ自身は一般人も魔法使いも、特に差別する気はないんじゃないか……と。

 その考えは、半分正解で、半分間違いだった。

 正解だったのは、フェルヴァは一般人と魔法使いを、特に差別してはいないということ。……何度か話して分かったが、フェルヴァはやはり、『魔法使いが世界を導く特別な存在』だとは、思っていないようだった。それに関しては、俺は素直にホッとした。

 そして、間違いだったのは、『フェルヴァが魔法使いたちの心を救おうとしている』という部分だ。
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