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第108話(リーゼル視点)

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 今俺が心配しなくてはならないのは、フェルヴァのことだ。親父があんなことになってしまった以上、学校に通うことなんて、できるはずがない。間違いなく、いじめの標的になってしまう。

 ハッキリ言って俺たちはもう、この国ではまともに生きていくことはできないと思っておいた方がいい。……そうだな、金だけはあるのだから、どこか遠くに移り住み、フェルヴァと二人、静かに暮らしていくべきかもしれない。

 俺はそんなことを思い、フェルヴァに胸の内を打ち明けた。

 するとフェルヴァは、『何をそんなに悩んでいるのか』とでも言いたげな顔で、ケラケラと笑って、こう言った。

「心配いらないわよ、姉さん。私、もう半年前から、学校なんて通ってないから」

「なんですって? ……じゃああなた、日中、いつもどこに行っているの?」

 俺は、首を傾げながらそう問いかけた。……この半年間、フェルヴァとはあまり口をきいていないが、フェルヴァがしっかりとした服装で屋敷の正門を出ていくのは、たびたび目にしていた。不登校だからといって、フェルヴァが屋敷に引きこもっていたわけではないことは明白だった。

 怪訝そうな俺を見て、フェルヴァはますます楽しげに笑った。
 思わずゾクリとするほど、蠱惑的な笑みだった。

 もともと美少女であったフェルヴァだが、今やその美貌は、『魔性』と形容するのがふさわしいほどに、華やかで、輝くようで、そして、妖しい色香を振りまいていた。

 しばらく笑った後、フェルヴァは急に真顔になって、冷ややかに言った。

「私がいつも何をしてるかなんて、姉さんにとってはどうでもいいことでしょ?」

 その、突き放すような言い方に少々気圧されたが、俺は力強く言葉を返した。

「そんなわけないでしょう。……お父様があんなことになって、アストラス家ももうおしまい。私たちは、この世界にたった二人だけ残された姉妹なのよ。あなたのことが、心配じゃないわけないでしょう?」

「あはっ……『この世界にたった二人だけ残された姉妹』かぁ。詩的で、良いフレーズね。姉さん、詩人か小説家にでもなったら? 政治家はもう無理でも、そっちならなんとかなるかもよ?」

「ふざけないで、フェルヴァ。私は真剣な話をしてるのよ」
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